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霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

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グレムリンズギフトⅠ chapter1『到達点』sectionA


……

たどり着く場所がある。私には、いつか、辿り着く場所が。だが、それがどこかはまだわからない。分からないまま歩き続ける。歩き続ければ、いつかたどり着く気がする。そう、無限に等しいほどの時間をかければ、たどり着けない場所などない。

そう信じている。私はただの人間であり、滅びゆく世界に滅びゆく身体を持って生まれた。誰もかれもが、滅びに向かって歩いている。そしてどこにもたどり着けないまま、不本意な死の終着点で旅を終える。私は、まだたどり着けそうにない。

私は、共に歩む少年の影を追い求めている。彼と一緒にたどり着けたら幸せだろう。彼は、いつも私のことを見守ってくれていた。そして、微笑んでくれた。だから、彼にも見せてあげたい。私のたどり着く場所を。その展望を。私は予見する。素晴らしい眺めを。いつか見るはずだ。漠然と、そんな希望を抱いている。

しかし、いま、私の隣に少年はいない。ずっと昔に別れたままだ。どこで何をしているか、生きているか死んでいるかも分からない。けれども、彼も歩き続けているだろう。そう信じている。いつか、出会うはずなのだ。無限に歩き続ければ、いつか巡り合う。そして、たどり着く。

見たい景色がある。世界で、一番美しい瞬間だ。私のたどり着く場所というのは、そういった場所だ。なんのために生きるのか。その答えだ。人生で、必ず巡ってくるだろう。人生最高の瞬間というやつだ。私はそこにたどり着きたい。私が生きた中で、最高に美しく輝く瞬間だ。そして、誰よりも美しいものを見たいと思う。だから私は、無限に生きて、無限の中で最高の瞬間、無限の頂点を見たいと思う。

そのためには、無限に生きる必要がある。

だから、私は――ダスト・グレムリンのテイマー選別試験に挑んだ。

そして……選ばれたのだ。


……


Gがかかる。グレムリンの急速発進は慣れないものだ。カタパルトで射出された機体が、重力を捉えてどこまでも飛んでいく。

良く晴れていた。高濃度粉塵の姿はなく、珍しく水平線まで見渡せる。テイマーズケイジ、第七航空戦隊、六番機。決して偉い序列ではない。グレムリン航空戦隊の末席。それが、教室の窓際の席のように心地よい。それは、ダスト・グレムリンへの素養を認められても変わらなかったことが、秘かにうれしかった。

「眼下に海が見えるよ」
「海なんてどこにもあるだろう」

管制の声も気にせず、いつものセリフを言う。海を見下ろすのは好きだ。私は、いつも海を見ている。あの時もそうだった。私はシルエット・グレムリンに乗り、選抜試験を受けた。そして……トラブルはあったものの、無事帰還し、素養アリと告げられた。

今はこうして、ダスト・グレムリンに乗っている。この機体に乗るためにテイマーズケイジに入ったのだが、面白いように話は進み、そしてこうしてダスト・グレムリンに選ばれている。挑んだ同僚は100人弱。ケイジの外にも募集をかけ、1000人は集まっただろうか? とにかく、狭き門だった。

「ダスト・グレムリン。異常なし。アルファからフォックストロットまで全パーツ、正常機能」
「よろしい、今日はこのまま帰還だ。いいデータが取れた」
「帰るの早い」
「ああ、またハイドラが出たらたまらないからな」

「ハイドラ……」

あのとき、現れた謎の未確認機。ニヤリと笑い、唇を舐める。

「また撃破すればいいじゃない。あの時のように、何度でも」
「バカ言うな、あんな奇跡何度も起こせるか。ミサイルを全弾避ける。的確に関節を狙う射撃。最後は背中を切りつけて撃破。目を疑ったよ。お前単騎だぜ」

「できるさ」

できるはずだ。私は無敵だ。わたしは不滅だ。だって、まだ私はたどり着いていないのだから。しかし、なぜだろう……あの時、ハイドラを撃破した時に感じた、強烈な空虚は。私の全てを食らいつくすような、空虚。

いつか分かるかもしれない。ハイドラは強い。いつか再びまみえるだろう。無限の旅の途中で、幾度となく。

「6番機カザミサ。これより帰還する」

大きく旋回して、私は眼下の空母を目指した。


空は奇妙なほど晴れていた。あの時の霧を感じさせないほどに――。

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