"てぃーこらむ"カテゴリーの記事一覧
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アラームが鳴る
敵が来たのだ
彼はゆっくりと目を覚ました
自らの魔王領域に侍るは漆黒の騎士
微動だにせず、闇のように跪いている
「来たか」
「御意」
魔王のアラームは特注性だ
敵が魔力センサーにかかると強力な通電が発生する
そうして、敵の排除と同時に電気信号による警戒が可能なのだ
「勇者を倒せ。以上だ」
「御意」
漆黒の騎士は風が去るように駆け出した
侵略を始めたのだ
漆黒の騎士と視界を共有し、彼は獲物を探す
見つけたのは、破壊されたアラームの罠
近くにいるはずだ
魔王の手は決して狙った勇者を逃さない
闇がよぎる
漆黒の騎士は不定形に姿を変え、あらゆる場所をくまなく探す
空き缶が吹っ飛び
家具が散らばり
ネコが驚いて飛び跳ねる
ダンジョンの中を嵐のように駆け抜ける闇
勇者は近い
その時、視界によぎる一本の「紐」
漆黒の騎士は、兜の奥で瞳の炎を爆発させた
来る
勇者の一撃が、来る!
空間を断裂させ、振動を繰り返す「紐」が、漆黒の騎士を追従する!
アレは、勇者の武器などではない
勇者、そのものの姿
時には蛮人の姿を取り
時には村人のように無垢な姿で
時には戦士のように誇り高く
その正体は、このような……超常の力である!
ヴィイヴィイイヴィイヴィヴィヴィヴィヴィイ
不可思議な振動音を奏でながら、「紐」が軌跡を描いて漆黒の騎士を追い詰める
このまま黙っていたら、破壊されるのは漆黒の騎士だ
剣を抜く騎士
一閃!
キュ―――――ン!!!!
甲高い音を立てて火花を散らす剣!
騎士は、抉るように反対の小手を「紐」に突き刺す!
すさまじい閃光
火花が散り、雨のように闇に降り注ぐ
ギュワッ!!
奇妙な断裂音と共に、勇者は砕け散り、塩の欠片となって四散した
「よろしい」
「御意」
彼は……魔王は、意識を自らの魔王領域に帰還させた
そして、ゆっくりと、目を閉じる
二度寝はいい
安らぎがある
また、アラームのなる朝まで
彼は眠る
それより楽しい贅沢など、あるかね?
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まずはメシを喰おう
戦いにはそれが必要だからだ
彼は魔王だった
そして、戦い続けていた
勇者の侵攻は激しさを増している
なぜか?
それが、勇者というものだ
と片付けるには、少々足りない
勇者は、魔王を倒すべく生まれた
それは光と影のように
コインの裏表のように
表裏一体として存在していた
それは、一説には魔王の影だという
魔王の魔王領域が生み出した、反する力を持つ存在
それで初めて、つり合いが取れる、というものだ
魔王領域は、この世に歪みをもたらす
そして、勇者は歪みを正すために
生み出され
遣わされるのだという
とにかく、彼は勇者に追われていた
裸足の足が血でにじんでいた
息がかれる
喉の奥に血の匂い
汗が背中から吹き出し、べったりと服が張り付いていた
吐く息が白く、勢いよく噴き出す
すでに、彼の設けた罠は全て踏破され
頼みの護衛も全て倒された
勇者は、もうすぐ彼を捉えるだろう
残る階層は奈落、そして魔王領域のみ
「どうすればいい……どうすれば?」
激しく自問する
ただ、魔王としているだけで
魔王として世界に干渉するだけで
勇者がどこからともなく現れ
こうして彼を追い詰める
戦わなければ、勇者は現れない
戦いを目指した時から、勇者は現れる
そして、どこまでも追い詰める
「奈落で決着をつけねば……」
自分を追いかける勇者
その中間地点に、奈落はある
勇者が奈落に近づいている
奈落には、彼の腹心が眠っているはずだ
そう、氷結のヴァンパイア・プリンスがいるはずなのだ
奈落に接触すれば、勇者の前にヴァンパイア・プリンスが現れる
そして、瀕死の勇者にとどめを刺す
そう願うほかない
願う……
願う?
誰に?
神は滅びた
まさか、勇者に許しを乞うというのだろうか
「俺は……」
彼は歩みを止めた
そして、ゆっくりと振り返った
今まさに、頼みの綱のヴァンパイア・プリンスが
勇者に一矢報いつつも制圧されたところだった
何をすればいい?
有効な手を打ち一発逆転させる?
あるいは、奇跡的な逃げ道を見つける?
そんなものは必要ない
彼は、ポケットをまさぐった
チョコレートがひとかけ
体温で柔らかくなっていた
それの銀紙を剥き
彼は口に含んだ
生きることに必要なのは、天才的戦略ではない
逆転の戦術でもない
こうして、食うことだ
勇者が、ゆっくりと彼に近づく
やるべきことはたくさんあったかもしれない
尽くすべき手は無数に
それでも、
メシを食うほかに、大切なことなどあっただろうか
「俺は準備できたぜ」
「……」
勇者が、魔王領域に触れた
その瞬間、魔王の力が炸裂した!
魔王攻撃……
魔王の持つ、最強の力
その射程は、あまりにも狭い
それでも……
「オオオオ……」
勇者はバラバラに吹き飛ぶ
度重なる罠と
護衛の攻撃を受けた勇者に
耐えるすべはなかった
「ギリギリ……倒せたか」
きっと、売り上げは悲惨だろう
彼は、塩の柱となった勇者の亡骸から
依り代となる宝石……捕虜を手にいれる
度重なる侵攻で捕虜のほとんどを失った
きっと、元は取れないだろう
それでも……
「メシを喰うよりは、些細な問題だ」
彼は歩き出す
その後ろを追従する護衛たち
そして、ヴァンパイア・プリンス……
彼の戦いは続く
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旅に持っていけるものは少ない
つまりは、選ばれるということであり
最も大切なものの一つ、ということだ
そして彼女もまた、旅立ちの日を迎えていた
ここは『底抜け天井』
遥かなる大深海『スーパーデプス』のさらに上
光り輝く天体が浮かぶ『虚空領域』……その上
ボロボロの構造物が辛うじてぶら下がっている冷たい場所
そこが、『底抜け天井』だった
彼女は魔王だ
魔の力を持つ魔法使いの中で
最も古い種族、ということだ
彼女は『底抜け天井』に生まれ落ち
静かに生きて暮らしていた
かつて、魔王は世界を支配していた
神々とともに世界を創り
神なき後は経済で世界を導いていた
それも今や昔
モンスターを召喚するなどの力こそあれど
いまや何の権力もない
つまりは、『底抜け天井』の住人の一人にすぎず
普通に暮らして、普通に労働し、
秩序に貢献することを求められていた
ある日、彼女は仕事を辞めた
彼女は飯炊きの仕事に従事していたが
どうもこうも、うまく利用されるだけの毎日だった
魔法の力を酷使され、
対価として得られるのは、カラカラに乾いたパン
そして、たまに干し肉や豆の缶詰だった
彼女は、自分の作ったごちそうを食べることはなかった
もちろん、飯炊き主人から魔力を貰い、それでようやく作れるものだが
それにしても、扱いがひどすぎた
住み込みの職場を後にして、彼女は旅立った
「わたしは、魔王なんだ」
古い血の種族。勇者と戦い、世界を支配する、高貴な種族
それが、パンと缶詰だけで酷使される
もう限界だった
夜の3時に、彼女は『底抜け天井』のどこか遠くを目指して、歩き出した
持ち物は、何もなかった
全て奪われていた
飯炊き主人に、何もかも奪われていたのだ
おなかがすき、彼女は道端にうずくまった
あのまま酷使されていれば、食いものにはありつけた
けれども、心は飢えたままだった
「でも今は、夢でお腹がいっぱい」
自分の意志で歩き
自分の意志で旅立ち
そして、自分の意志で、死――
手の甲に落ちた涙で、はっと顔を上げる
気づけば目の前に、象がいた
「ぱおーん」
象の背に乗る謎の人物
顔は暗くて見えない
ただ、声は若い男に聞こえる
「マーケットに、ようこそ」
「マーケット? わたし、お金も何もない」
「いらないさ。お金は、後から払えばいい」
象の鼻が、背中の荷台から何かを掴んで、そっと差し出す
飴玉だった
「おっと、食べちゃダメだよ。それは変化の罠」
「罠……?」
「君は、マーケットにアクセスできる。そこで自らを護る、全てを手にいれるんだ」
象の背の彼が、手を掲げた
すると、視界を圧倒的物量が覆いつくす!
鎖に繋がれたドラゴン!
不思議な機械や装置!
目の前を行き来するコボルトやゴブリン!
そして、ショーケースの天使……
あらゆるものが、並んで売られていた
「好きなものを選んで戦うんだ。もうすぐ、勇者がやってくる」
「勇者……!」
「君は戦う。勇者を捕らえ、村を焼き、金品を集め、最強の略奪王となる。そう、君は確かに、魔王なんだ。何も恐れることはない」
夢にまで見た、お伽噺の世界があった。でも――
「どうして、私に……」
「それは君が魔王だから。そして何より――」
「君が夢を持って旅立ったからだよ」 -
冷たい
寒い
凍える
第6ブロックは、そんな場所だった。霜が降りたダンジョンがどこまでも続く。電気式ランプは、冷たい光を放ち、指先さえ温めない。歯が鳴る。霜を踏む音。足跡が続いている。自分の前方に続く足跡。四足獣の足跡。
「どうしてこんなことに」
つぶやきが漏れた。激動の時代だった。ダンジョンのあったはずの秩序が突如消滅したのだ。それまで、暗黒の時代を超えて、築いた文明、経済、法が、一瞬にして消え去った。
カガクシャと名乗る謎の知識階層。デバステイターと呼ばれる、無機質な軍隊。彼らは滅びの光を身にまとい、ダンジョンの秩序を消し去ってしまった。
まず最初に、流通が止まった。経済でもって結束した社会が、壊されてしまった。デバステイターの破壊によって、商品が届かなくなり、人々は飢えた。
次に、貨幣が意味を持たなくなった。そんなものはデバステイターに対し、無力だった。弱肉強食の時代が始まった。それは残酷な時代だった。飢えた人々は、略奪を始めた。
そして、いつしか法が意味をなさなくなり、そんなものは幻想だと皆が思い知った。暴力こそが絶対的な力となり、人々は最も強い暴力のもとに集った。
歴史に残らない、暗黒の時代――それが再び訪れた。そして、幾年もの時間が過ぎ、ようやく人々は秩序を取り戻した。
その時代に何が行われたのが、どんな血が流されたのが、今ではわからない。ただ、平和が訪れた。限定的であったが……ようやく、人々は安心して暮らせるようになったのだ。
――
超深海『スーパーデプス』、その上空『虚空領域』、そのさらに上……天にふたをする世界の鍋蓋、できそこないの吊り天井。『底抜け天井』もまた、暗黒時代を乗り越え、新たな指導者の下、秩序を取り戻した階層だった。
ダンジョンに広く約束された秩序こそないが、分断されたそれぞれの階層で、断絶したそれぞれの独特な秩序が生まれていた。
『天球統率者』……それが、この『底抜け天井』階層の支配者であり、指導者であった。彼の目指した秩序は厳しい階級制の世界で、能なきものは、下位の階層に放逐され、やがてボロボロの天井から抜け落ちるように、虚空領域の虚無の空へと零れ落ちていった。そんな世界だった。
――
「おれはまだ、零れ落ちるわけには……」
言葉が続かない。強烈な吹雪が、彼を襲っていた。魔法の風雪である。前方に光放つ人影。冷たく彼を見据えていた。
勇者。
遥か古来より息づく、伝説の血統。魔王を破壊するために存在する影にとっての光。そして、魔王である彼を狙う、圧倒的存在。すでに、この冷光の勇者は、彼のそばまで近づいていた。
勇者がもう数歩踏み込めば、彼は打ちのめされ、さらに下位の階層へと零れ落ちるだろう。
「おれは……」
疲れ果てていた。魔王の力を受け継ぎ、護ってきた。かつて、神々とともに世界を作った魔王。それが今や、こうして競争社会の中選別され、打ちのめされている。
「もう……」
電気式ランプを落とし、彼は膝をついた。ミシミシとダンジョンがきしむ。このダンジョンの底が抜ければ、もう後は落ちるだけだ。
目を閉じる。
轟音。
振動。
そして――。
「おれはもう、お前を――捉えている!」
地面を割って飛び出した四足獣! 冷光の勇者は一瞬光を点滅させた後、自分の足場が崩れ去ったことを知り――彼を見ただろうか――伸ばした手は空を切り、虚空領域へと真っ逆さまに落ちていった。
勇者のことだ。また涼しい顔をして復活を果たすだろう。とりあえず今日は、切り抜けたということだ。
冷気を纏った四足獣は、主人の足元にすり寄り、体をこすりつける。
「つめてぇっての」
魔王はゆっくりと歩き出した。四足獣を連れて。はじまりはいつも最下層。彼の隣にはいつも――
『あなたのビースト』がいた
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勇者『常世神』
かつて存在した神を信仰する勇者の一派である
『常世神』は20階層からなる重圧試験階層『ガル』を本拠地とする
『常世神』の目的とは、神の復活である
いつから……
それは、神が滅びてすぐに、彼らは恐れを抱いたゆえ
神の滅びによって彼らは全ての恩恵を失い、
輝く蝶の塊となった
どこで……
それは重圧試験階層『ガル』において、神の顕現を目論む
重圧試験階層『ガル』は、魔王『ガル』の住まう場所
あらゆる試験を繰り返す術導実験場である
ここに侵攻した『常世神』は、神の実験を繰り返す
誰が……
『常世神』。それは、永遠にさまよい続ける信徒の群れ
神なき世に神を探す、無為なるものたち
何を……
神を。神の顕現を。魔王『ガル』は戦いのさなかにあった
勇者『最終試験前夜』は『ガル』と敵対する勢力であり
術導実験場であるこの階層を破壊するために生まれる
魔王『ガル』はできそこないの神を再現するため、あらゆる手を尽くした
魔神の復活。失われた神の威光。それを利用すべく、『常世神』は行動を開始する
なぜ……
それは、『常世神』が消えゆく存在ゆえ
かつての栄光は遠く、滅びに向かう『常世神』
這い上がる手は一つしかない
それは、神の復活である
いつか、彼らの願いが叶う時
神はその姿を彼らの前に表すだろう
どのように……
それは、『常世神』の最後の賭け
『常世神』はいずれ消えゆく定め
輝きと光を失い、化石となる定め
しかし、それゆえ彼らは不滅である
いつか、彼らの願いが叶う時
神はその身を彼らの内に委ねるであろう
『常世神』は歩き続ける
数多の敵を屠り、魂を流し、葬列を作る
そして、いつの日か疲れ果てて眠るだろう
眠りから目覚めるまで
いつか、彼らの願いが叶う時
黒い、水の流れる棺が、彼らの破片をつなぎとめる日まで
そのとき、神は確かに顕現するであろう