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霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

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四畳半のコラム「あなたのプリンセス」
突然、商売を始めることになった

理由はたくさんある

そろそろ働かなくちゃいけないとか
家を継ぐだとか
ほんの少しの好奇心とか

そして、世界を救うとか

とにかく、このダンジョンの片隅は猫の住処より狭い
成人魔王に与えられる土地は僅か四畳半
それもこれも、大いなる繁栄の力が人口を増やしているからだ

超高層ダンジョン9999階
朝のここはまるで戦場

そこら中から猛牛の鼻息みたいに、炊事と朝シャンの湯気が立ち上る

ぼくはというと、そんな割り当てられた小さな世界の片隅で
横になってまどろんでいた

商品を買うひとっているんだろうか
自分の接客は大丈夫だろうか

とりとめのない思考
霞がかった不安

分かることがある
需要はある、ということ

それは、勇者のライフスタイルと直結している
魔王と勇者が和解し、平和が訪れた世界
昔はモンスターを倒すことで、魔王を倒すことで、勇者は名声を得ていた
それでプリンセスなんかと結婚できたというのだからうらやましい

今は違う。そんなことをしたら、カルマの烙印を押される
だから、勇者は商品を買う
自らのステータスを得るために、商品を買って、自分を満たす
そして、勇者はモンスターのサービスを受ける
殺戮して経験値を稼ぐ時代はもう終わり
いまや勇者はビーストカフェで冷気獣を撫でたり
ハーピィ劇団の劇を見て経験値を得ている

全てが暴力の世界から、商売の世界に塗り替えられてしまった

いつからだろう

魔王も働かなくてはならなくなってしまった

昔は玉座に座って水晶球を覗きながら、適当に指示していればよかったという
いまや、納品チェックに陳列清掃
まるで召使みたいに右往左往

でも、生きるためには仕方がない
世界の仕組みがそうなってしまったのだから

いつしか朝の喧騒は静まり返り、誰もが出勤したか、労働している時間となった
すこし、居心地が悪い時間だ

明日からの準備をしなければ
そう思って、壁に積み上げた段ボールを一つ一つ開封する

ベルが鳴る
玄関のベルだ

覗き穴から見ると、ドアの外に王女様が立っていた
正確には、王女様のみすぼらしいコスプレをした少女が

そう、いまは神なき世
経済の遍く支配する世界

「やぁ、従業員に応募した……」
「あなたのプリンセスです! プリンセス第16専門学校を卒業し、明日から働かせていただくため、ご挨拶に来ました!」

王女様だって、働かなくてはいけないのだ


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