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一枚の写真がある
色あせた写真だ
最後のコロッセオのメンバーである
コロッセオによる興行はここ10年ほど行われていなかった。理由は、観客のコロッセオ離れと言われている。演出的にも陳腐化し、選手からスターが生まれることもなく、先細り、ついには閉鎖されてしまった
最近のことだ。鋼鉄レギュレーション、つまりはハイドラ対通常兵器の一方的な狩りを中継し、撃墜数や戦闘時間について賭けを行ったり、応援しているハイドラの活躍をスポーツバーで見たりする
「こんなのは競技じゃない」
薄汚れたスポーツバーの片隅で、薬臭いジンライムを飲みながら、一人の男がモニターを睨み上げた。見なければいいのに、身体は熱を求めている。あの時の興奮を全てが覚えている。水のように薄いジンライムを飲んでも満たされない、そう、彼は本当のコロッセオを知っていた
「俺はチャンピオンだ」
誰にも聞こえない声で自分に言い聞かせる。彼は10年前、最後のコロッセオリーグでチャンピオンとなった
ファンも減り、スポンサーも減り、みすぼらしい優勝カップを掲げながらも、彼は確かにチャンピオンだった。彼は知っていた。本当のハイドラの戦いを
命を懸けた戦いだった。当時は跳躍レギュや飛行レギュ、索敵レギュなど複雑なルールが存在し、地下通路で、荒野で、高所で、そして競技場でテクニカルな戦いを披露していた
「本物を……見せてやりたい」
コロッセオの復活は、彼にとって耐えがたいものだった。あまりにもぬるすぎる戦い、あまりにも刺激のない展開。しかし、それこそが観客の求めていたものだった。タレントのトークや応援の読み上げで番組のほとんどが埋まる。見た目麗しいハイドラライダーの特設コーナー、ドラマティックな半生の紹介……支える家族や友人の声
「チャンピオンには……必要ない」
興行は観客を向いていなければならない。時代の流れは重々承知。けれども、彼にとってコロッセオとは暴力の檻だった
人間性を捨て野獣の牙をむき出しにして、命のやり取りをする暴力だった。それについていけなくなった観客が離れ、コロッセオは消滅した
「俺は……」
モニターが切り替わり、重大発表が告げられる。レギュレーションの発表。ハイドラ同士の戦い。名乗りを上げたエントリー者……
「俺は時代遅れだからよ……」
写真と同じだった。当時の記憶のまま、色あせていくだけの人間だった。手帳には今も写真が挟まっている。過去の栄光、過去の青春、過去の……枷
年齢的に衰えを感じる。10年という歳月は彼のすべてを奪い去ってしまった。もはや機体やライセンスすらない
ジンライムを呷る。ネオンがきらめく。彼はモニターに手を伸ばした
掴める気がした。あまりにも弱い握力で、当時の暴力を
「時代遅れだから、つい昔話をしちまうんだ」
手を下ろす。チャンピオンは席を立った。また見に来るのだろう。そして、最近の若いライダーは……と愚痴をこぼすのだろう。涙を浮かべるのだろう
けれども、彼は……また来てしまうのだ
なぜなら、彼の掴んだ栄光の瞬間は……受け継がれているからだ。今を生きるライダーに
モニターの向こうで笑うライダー。牙をむき、隠しきれない暴力を秘め
最後にモニターを振り返って、それを確かめた後、右腕を再び伸ばし、握った
栄光を掴んだ握力は衰えても……握った感触は決して忘れられない
「グッドラック。お前が新しいチャンピオンかな?」
色あせた写真だ
最後のコロッセオのメンバーである
コロッセオによる興行はここ10年ほど行われていなかった。理由は、観客のコロッセオ離れと言われている。演出的にも陳腐化し、選手からスターが生まれることもなく、先細り、ついには閉鎖されてしまった
最近のことだ。鋼鉄レギュレーション、つまりはハイドラ対通常兵器の一方的な狩りを中継し、撃墜数や戦闘時間について賭けを行ったり、応援しているハイドラの活躍をスポーツバーで見たりする
「こんなのは競技じゃない」
薄汚れたスポーツバーの片隅で、薬臭いジンライムを飲みながら、一人の男がモニターを睨み上げた。見なければいいのに、身体は熱を求めている。あの時の興奮を全てが覚えている。水のように薄いジンライムを飲んでも満たされない、そう、彼は本当のコロッセオを知っていた
「俺はチャンピオンだ」
誰にも聞こえない声で自分に言い聞かせる。彼は10年前、最後のコロッセオリーグでチャンピオンとなった
ファンも減り、スポンサーも減り、みすぼらしい優勝カップを掲げながらも、彼は確かにチャンピオンだった。彼は知っていた。本当のハイドラの戦いを
命を懸けた戦いだった。当時は跳躍レギュや飛行レギュ、索敵レギュなど複雑なルールが存在し、地下通路で、荒野で、高所で、そして競技場でテクニカルな戦いを披露していた
「本物を……見せてやりたい」
コロッセオの復活は、彼にとって耐えがたいものだった。あまりにもぬるすぎる戦い、あまりにも刺激のない展開。しかし、それこそが観客の求めていたものだった。タレントのトークや応援の読み上げで番組のほとんどが埋まる。見た目麗しいハイドラライダーの特設コーナー、ドラマティックな半生の紹介……支える家族や友人の声
「チャンピオンには……必要ない」
興行は観客を向いていなければならない。時代の流れは重々承知。けれども、彼にとってコロッセオとは暴力の檻だった
人間性を捨て野獣の牙をむき出しにして、命のやり取りをする暴力だった。それについていけなくなった観客が離れ、コロッセオは消滅した
「俺は……」
モニターが切り替わり、重大発表が告げられる。レギュレーションの発表。ハイドラ同士の戦い。名乗りを上げたエントリー者……
「俺は時代遅れだからよ……」
写真と同じだった。当時の記憶のまま、色あせていくだけの人間だった。手帳には今も写真が挟まっている。過去の栄光、過去の青春、過去の……枷
年齢的に衰えを感じる。10年という歳月は彼のすべてを奪い去ってしまった。もはや機体やライセンスすらない
ジンライムを呷る。ネオンがきらめく。彼はモニターに手を伸ばした
掴める気がした。あまりにも弱い握力で、当時の暴力を
「時代遅れだから、つい昔話をしちまうんだ」
手を下ろす。チャンピオンは席を立った。また見に来るのだろう。そして、最近の若いライダーは……と愚痴をこぼすのだろう。涙を浮かべるのだろう
けれども、彼は……また来てしまうのだ
なぜなら、彼の掴んだ栄光の瞬間は……受け継がれているからだ。今を生きるライダーに
モニターの向こうで笑うライダー。牙をむき、隠しきれない暴力を秘め
最後にモニターを振り返って、それを確かめた後、右腕を再び伸ばし、握った
栄光を掴んだ握力は衰えても……握った感触は決して忘れられない
「グッドラック。お前が新しいチャンピオンかな?」
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