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一機の重二輪が野を駆ける
そのシルエットはさながら中世の騎士のごとく
前方に伸びる騎士の槍。それは残像領域を撃ち抜く焼夷機関砲だ
彼は走り続けていた
いつまでも走り続けていた
そして、彼は一人だった
もちろん、最初から孤独だったわけではない
孤独に生れ落ち、仲間を得て、一つのユニオンを設立した
「アンセストラル・ツーリング」と名付けられたそのユニオンは、彼を中心として、10名の仲間が集まった。目的はただ一つ。戦場で金を稼ぎながら、果て無い二輪の旅を続けること
楽しい日々だった。皆が皆、思い思いに金を稼ぎ、思い思いに酒を酌み、酔いがさめれば気が済むまで走り続けた
フルフェイス・ヘルメットの内側に投影された戦況図。彼はその向こうに、いつも輝かしい日々を見ていた。もう二度と、その日々は訪れない
最初の戦死者から、すべてが壊れ始めた。家庭を得て、死を恐れた者。資金繰りに難色を示し、定職に就いた者。夢が色あせて、消えるように去って行った者
いつの間にか、彼は一人になっていた。それすらも、気付いたのはだいぶ後になってからだった
「みんな、はぐれちまったのかよ」
一人呟く。本当ははぐれてしまったのは自分だけかもしれない。この重二輪は速すぎて――車輪にしては、遅い方だったが――自分だけが明後日の方向へと突き進んでしまったのかもしれない
旅は、終わろうとしていた
彼は戦い続けた。どこまでも戦い続けた。膨れ上がる整備費。新規パーツを次々と買い求めなければ、前線で戦い続けることはできない
それが彼にとって唯一の選択肢だった。もちろん前線から逃げることはできる。安全な街で、居眠りしても完遂できるような楽なミッションを選び、惰性のままのろのろと歩いてもよかった
その方が幸せだったとしても、彼には受け入れがたい幸せの形だった
「みんな、同じ夢の形じゃなかったんだ。俺の夢の形は……この流線型の重二輪だったんだ」
もはや、彼の貯金は燃え尽きようとしていた。旅が、終わろうとしていた。受け入れがたい夢を押し付けられて麻痺するか、それとも――
『スキャン開始……ターゲット確認。迎撃してください』
一機のミサイル戦闘機が視界に映る。真っすぐに突っ込んでくる。交錯する瞬間、彼の焼夷機関砲が火を噴いた! ……が、あっけなく、それは途切れてしまった
『残弾0.リロードを開始します。敵ミサイルを感知。迎撃……失敗、失敗、失敗、失敗……』
無機質なシステムメッセージ。彼は眼を閉じて、小さく息を吐いた
「俺の夢の形は、永遠だ……これで、永遠に――」
流線形とは言い難い彼の破片は、炎と共に荒野を転がり、やがて砂礫の一つとなって、ただただ静かになっていった
そのシルエットはさながら中世の騎士のごとく
前方に伸びる騎士の槍。それは残像領域を撃ち抜く焼夷機関砲だ
彼は走り続けていた
いつまでも走り続けていた
そして、彼は一人だった
もちろん、最初から孤独だったわけではない
孤独に生れ落ち、仲間を得て、一つのユニオンを設立した
「アンセストラル・ツーリング」と名付けられたそのユニオンは、彼を中心として、10名の仲間が集まった。目的はただ一つ。戦場で金を稼ぎながら、果て無い二輪の旅を続けること
楽しい日々だった。皆が皆、思い思いに金を稼ぎ、思い思いに酒を酌み、酔いがさめれば気が済むまで走り続けた
フルフェイス・ヘルメットの内側に投影された戦況図。彼はその向こうに、いつも輝かしい日々を見ていた。もう二度と、その日々は訪れない
最初の戦死者から、すべてが壊れ始めた。家庭を得て、死を恐れた者。資金繰りに難色を示し、定職に就いた者。夢が色あせて、消えるように去って行った者
いつの間にか、彼は一人になっていた。それすらも、気付いたのはだいぶ後になってからだった
「みんな、はぐれちまったのかよ」
一人呟く。本当ははぐれてしまったのは自分だけかもしれない。この重二輪は速すぎて――車輪にしては、遅い方だったが――自分だけが明後日の方向へと突き進んでしまったのかもしれない
旅は、終わろうとしていた
彼は戦い続けた。どこまでも戦い続けた。膨れ上がる整備費。新規パーツを次々と買い求めなければ、前線で戦い続けることはできない
それが彼にとって唯一の選択肢だった。もちろん前線から逃げることはできる。安全な街で、居眠りしても完遂できるような楽なミッションを選び、惰性のままのろのろと歩いてもよかった
その方が幸せだったとしても、彼には受け入れがたい幸せの形だった
「みんな、同じ夢の形じゃなかったんだ。俺の夢の形は……この流線型の重二輪だったんだ」
もはや、彼の貯金は燃え尽きようとしていた。旅が、終わろうとしていた。受け入れがたい夢を押し付けられて麻痺するか、それとも――
『スキャン開始……ターゲット確認。迎撃してください』
一機のミサイル戦闘機が視界に映る。真っすぐに突っ込んでくる。交錯する瞬間、彼の焼夷機関砲が火を噴いた! ……が、あっけなく、それは途切れてしまった
『残弾0.リロードを開始します。敵ミサイルを感知。迎撃……失敗、失敗、失敗、失敗……』
無機質なシステムメッセージ。彼は眼を閉じて、小さく息を吐いた
「俺の夢の形は、永遠だ……これで、永遠に――」
流線形とは言い難い彼の破片は、炎と共に荒野を転がり、やがて砂礫の一つとなって、ただただ静かになっていった
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