"コラム"カテゴリーの記事一覧
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部屋を見渡す。俺の部屋をだ
俺はずっと、ここでさまよっている
こんな狭い部屋でだ
広さと言えば、ベッドで半分埋まるくらいだ
そこに、エアフィルターのやかましいゴウゴウとした音が
どこまでも反響している
このエアフィルターというやつは最悪の発明だ
空気を効率よく循環させる
それも、ちょうどいい気温や湿度を安定して供給できるように
そして、有害な外気を清浄に保つために
そう、外気は有害だ。かつての七月戦役が、世界をそう変えた
三大勢力はあまりにも強すぎるグレムリン大隊を前に
禁じ手となる作戦を強行した
新型艦載粒子砲
その光跡の後には、重粒子の「カス」である、『粉塵』が漂う
この粉塵はモロに吸うと、肺がズタズタになる
だからみんな、外を出歩かない
みんな「エアフィルター」に護られた室内か
空調服の中か、機械の中にいる
当然、窓なんてない
外は太陽の光がぎらぎらしているし、
それが粉塵に反射して、まるで火花の中に飛び込んだみたいになる
人類の居場所は、もはや人工物の中にしかない
それでグレムリンに負けているのだから、お笑い草だ
今日もテレビでは新型グレムリンの情報がグレイヴネットに乗って
やかましいほどに流れてくる
グレイヴネット――通信情報網であり、世界を繋ぎとめる情報の生命線
三大勢力とテイマーズケイジが張り巡らせた、世界にかかる網
どうせ情報なんて作られたものだろう
人工物に護られた人類にお似合いの流動食だ
粉塵――こいつが、世界を一変させた
どうしてこんなことになってしまったのだろう
粉塵の存在は千年前から伝わっている
この粉塵というやつは、水蒸気を吸着分解し、世界から雲を奪った
そして、代わりに与えられたのは、奇妙にきらめく虹色の粉塵ガス
七月戦役までは、遠くの空の現象だった
それでも、霧や雲といった言葉が、空想上のもの、という意味に転じるほど
世界を変えていた
それが、七月戦役のせいで……
あの日を覚えている
「みんな」が「血を吐いて」倒れている
俺たち5人は、何とか生き残った
グレムリンの張るゴースト・シールドが、粉塵を防いだのだ
偶然だった
でも、「みんな」は違った
重粒子投射実験
失われた船
そして、生き残ってしまった「5人」
幽霊船のエンブレムを掲げた5人は、やがて――
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虚空領域でよく食べられるもの
主食
・コーンミール
セルロースとでんぷんを合成して作られた市民主食一号
余りにも安価でよくできているため、古来より量産される
よくお湯で溶いて食べる
食感は粉っぽい葛
トウモロコシに似た香料が使われているが
何の香りだったのか今では失伝している
・メシ
でんぷんを粒状に成形し作られた市民主食二号
コーンミールが不味すぎたため生まれたメシ
しかし、コストが高く、上級市民が主に味わう
ま、お前らはコーンミールの黄色い泥でも食ってろってことだ
・コンブレッド
市民の努力により、いくらか食えるように調理されたコーンミール
パンに似ているが、硬いし酸っぱいしすぐかびる
主菜
・バイオベーコン
培養肉を薄くスライスして炙ったもの。臭いにおいがする
豚肉の匂いだということを知るものは、すでにいない
・虚空魚
虚空の海から釣った魚。主に焼いたり煮たりして食う
港湾部では魚市が開かれ、毎日新鮮な魚が並ぶ
外洋やタワー中枢に魚はいないため、食べることは稀であろう
・鶏肉
生きた動物肉を食うことは、特権階級にのみ許された贅沢であり
ニワトリを〆るときは、結婚式くらいであろう
副菜
・ドロ
謎の合成食物。変に酸っぱいゼリー状のもの
貴重なビタミン源
・栄養剤
錠剤やカプセルで手に入る。足りない栄養をカバーする
・冷凍みかん
凍らせたシャーベット状の合成食物
ドロよりはおいしく、人気があるが、高価
みかんが何を意味する言葉かは失われている
飲み物
・バイオコーヒー
飲めたものではない臭い水を飲めるようにしたもの
水にコーヒーポーション(コーヒーシロップ)を垂らすと完成
・クリーチャー
ケミカルな色をした合成飲料。カフェインが多く含まれている
・清浄水
非常に貴重であり、一周まわって雑味のない水が最高級の飲み物である
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「檻に閉じ込めなければならない。護るために……人類を、あの破壊から」
――ケイジキーパーNo.5《キィル》の発言記録
全ては崩壊し、いまは海の底に沈む虚空の時代
海上に亡霊のようにさまよう船団と、
掴んだ藁のように頼りないタワーの下で
人類は新たな社会を築き、そして死んでいった
虚空の時代に現れた勢力は3つ
真紅連理
翡翠経典
そして、青花師団
3つの勢力は互いに怒りの炎を交え、多くの悲しみを海に沈めた
ある日……その悲しみは限界を超える
七月戦役の始まり
巨大勢力の抗争の果てに、失われた幾多もの命
「失われた先に、何があるというの……?」
―――
No.5は彼のコードネームである
5人の若者が、ある日、タワー内部で、信じられないものを発掘する
いつものアレだと思っていた
ハイドラの化石
古代、すべてを破壊した存在であるハイドラ
いまはもう、起動することはない
ただのがらくたになっていた
どうやって動いていたのかも
どういう仕組みなのかも
何もわからない
ただの、石と化した栄光
しかし、「それ」は違った
「このフレームはいったい……■■■■■、分かるか?」
「■■■、生きている、こいつ……」
「生きているだって!? ■■■■■、ハイドラは全て化石に……」
「電源が生きている。まって、いま起動してみる」
原初のフレームの発見である
それは、赤銅色の不思議な金属でできていた
それは、エネルギーを帯びると淡い緑に発光した
それは、人間の骨のような形と、尻尾を持っていた
それは。頭部を欠いた状態で発見された
それは、人間の乗る場所が設えてあった
5人の若者は、その奇妙なフレームを持ち帰り、実験を繰り返した
4年の歳月が流れた
その間に、世界は七月戦役でめちゃくちゃに破壊されていた
「No.5、これが最後だよ。これが起動しなかったら、もう……」
「No.2、分かっている。俺たちには力がある」
「失われたNo.1、No.3のためにも」
「行くよ、No.5、No.4。グレムリン・フレーム通電開始」
「電圧正常。電源を確認」
「ミストエンジン粒子回転開始。電源を切替」
「機体発光。G.I.F.Tシステム、正常起動」
「頼む……ゴースト・フレーム……全てのスロットとのコネクションを開始!」
「ゴースト・グレムリン《ヴォイドヘッド》、歩けッ!!」
「あ……」
「歩いた!」
「や、やった……グレムリンを、完全再現した!」
「俺たちは、グレムリンを、理解した!!」
――それが正しいか、正しくないのか、だれにも分からない
ただ一つ、言えるのは……
新たな””破壊””が、人類の手に委ねられた、ということ
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あるひとは言う
ひとは何かを残すために生きるべきだと
それは意志だったり
子孫だったり
名声だったりする
ひとは死ぬ
そして、そのほとんどの情報を失う
俺はそうは思わない
俺は――俺の情報など
常に手のひらから零れ落ちる水のように
消えていく存在だと
昨日のこと
10年前のこと
産まれた時のこと
3分前の思考
それらは火花のように瞬いて、俺の中にはもう無い
俺は、ハイドラライダーになりたかった
結論を言おう
俺は、なれなかった
それは、常人には不可能な領域の話だった
けれども、俺の中の火花はいつまでもバチバチとくすぶり続けていた
だから俺は――コロッセオ・レギュレータ社に入った
……
面接の勝算はなかった
三文小説さながらの「意気込み」を書き
簡単なテストを受け
それで終わった
不気味な会社だった
今まで行ったどんな企業とも違う
俺の担当は「シェフィル」という女性だった
担当……入社に担当が必要なのか? とは思った
ともかく、俺はなぜか試験をパスし
コロッセオ・レギュレータ社の一員となった
「シェフィル」は仕事をよく教えてくれた
ハイドラをメインテーマに据えた広告・放送・雑誌
なんでもやる
アナウンサー紛いの実況中継をさせられた時は閉口した
ともかく、俺は忙しい日々を過ごす
ある日、俺は「シェフィル」に火花のことを話した
消えていく情報
消えていく俺
消えていく全て
そして、手に入れる全て
「シェフィル」は馬鹿にせず、真面目に聞いていた
「君は適性がある」
そうとだけ返事をした。何の適性かは分からなかった
帰り際に――夜のオフィスから帰るときに、それの真意を聞きたかった
俺はオフィスへと戻っていく
暗いオフィスに、「シェフィル」はいた
誰かと通信をしていた
モニターに流れる緑色のシステムメッセージ
声が聞こえる
聞いてはいけない気がして
俺は音もたてずにその場を去った
ただ、耳にこびりつく声
「……重圧試験の方はこちらで。11号空母は3番艦まで建造するから、全て試験をパスしてる。問題はないよ。それで交信術導の方は……」
聞いてはいけない気がした
家に帰り、冷蔵庫を開く
そこに冷えていたのは、買った覚えのないケーキと
「おりこうさん☺」
のチョコペン文字だった
俺は全てを失いつつ生きている
何も、積み上げたものはない
全てを忘れて生きていく
全てを失って生きていく
それでも……
どうやら俺は、生きていくようだ
何も知らず
何も残さず
何も起こすことなく
それでも俺は……カメラのシャッターを切る
ハイドラの姿を捉え、食らいつき、生きていく
まるで誰にも気づかれない暗渠のように
暗く、静かに、流れていく -
ガスマスクが苦しい
どこか詰まっているのかもしれない
ゴーグルが曇る
霧の粒子がまとわりつく
目の前に巨大な建造物
巨大な煙突から猛烈に霧を吹き出す
「領域遮断噴霧要塞」
彼はそれを見上げていた
世界を護るために、作られた建造物
その数、1万4321基
これが、聖魔領域を完全に霧の世界に変えてしまった
彼は覚えていた
かつての世界の姿を
摩天楼の立ち並ぶ、巨大都市群
今となっては、塵も残さず消し飛ばされた
1500連装マキシマ・スーパーウェポン反重波制御式デバステイター・ユニット
領域殲滅兵器の光によって
それは、世界を護るために作られ
その聖なる光でもって、世界を破壊しつくしてしまった
そして、無数の要塞が荒野に点在し、こうして……
瀕死の世界を維持している
残像となった世界を、消える前に
光によって消える前に、残された世界を
護らねばならない
彼は、こぶしを握り、要塞を背に歩き出した
やるべきことは山積みである
そのひとつひとつを解決し、
1000年かけて世界を維持し、再生させる
すでに、それを為すための勢力を作った
それこそが、生き残った企業であり
企業連盟であり
霧笛の塔であり
マーケットであり
アンビエント・ユニットであり
残像領域永劫化要塞であり
そして――
荒野に、箱があった
黒く切り取ったような漆黒の箱
無造作に箱の扉を開けて、内部に侵入する彼
潜り抜けた先は、静かなオフィスだった
そして、そこには、花瓶にひまわりを生けている彼女がいた
「世界は、どうだった?」
「1日2日では変わらないね、ただ……」
「ただ?」
「機械の眼は、案外いいものだ」
かつて、千里の視力を持った彼は
いまや視界をノイズだらけの電送情報に頼っていた
「美しい世界に、なるといいね」
「ああ」
全てを叶える力がある
全てを手に入れる力がある
シルエット・オーバーロードナイトの力によって
それは次元を超えて特異点に繋がり
全てをもたらす棺となる
なぜなら、水の流れるそこには、全てが叶う場所があるから
そこは、永久に眠り続ける霊場ゆえに
それは、棺となり、現世との扉となる
「全く、そう願うばかりだよ」
彼は、かつての癖で、機械のゴーグルをクイッと直そうとして……
手を掲げたまま、照れたように頭をかいた