"コラム"カテゴリーの記事一覧
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タワー北部をさまよう巨大空母船団
それは昔からこう呼ばれていた
――コロッセオ・レガシィ
かつての民を、この虚空の海に導いた船
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彼はこの空母船団の一つ、
「霊場B=12・A」に生まれた
それから24年。彼はここから出ることなく暮らしている
全てが錆びついていた
シャワーから出るのは錆臭い水
毎日の食事には缶詰の総合栄養食
人の気配は少ない
死んだように彷徨う幽霊船
おとぎ話を聞いていた
かつての人々の話
500年前、一つの大戦争が起きた
結果、世界は滅びつくされた
でも……戦争を起こした人々は、この世界から逃げ出した
理想を……平穏の永劫を手に入れるために
架空の夢の世界へと消えたという
残されたわずかな人々は、この錆びた世界で
緩やかに滅びつつある
そんな話を聞かされていた
彼は朝食を終え、船内労働施設へと赴いた
ここでは、船団を維持するための労働を行う
すでに30幾つの船が沈んでいる
船が沈まぬように、船を維持する労働
今日の彼は、船団防衛に赴くことになった
拳銃のベルトを装着し、ボロボロの戦闘機械に乗り込む
二本の腕にのこぎりを装備した格闘機体だ
ビープ音
日に焼けた液晶画面にメッセージ
《オハヨウ メハサメタカ? シートベルト シメヤガレ》
ため息をつき、シートベルトを装着する
戦うのには理由がある
運悪く、今日はそれを思い知る日となった
サイレンが鳴る。訓練を切り上げ、彼は海へと飛び出した
格闘機体は水しぶきを上げて、海の上をすべる
03式パルスバッテリーのもたらす水上浮遊効果だ
操縦レバーを握る。汗で滑る感覚。呼吸を整える
よりによって、自分の当番の時に「来る」とは
《テキ セッキン カクゴ シヤガレ》
海の向こうから接近する影
まるで自分と似ている機体
あれが何なのか知らない
ただ、船を沈める存在ということは分かる
冗談じゃない
こんな滅びた世界に残されて
死の危険に晒されていて
生き残っても得るものなどありはしない
のこぎりを回転させる
チャンスは一瞬。敵を切り刻むか
自分が不可思議な何かで爆散させられるかだ
間合いを測りながら、謎の機体と追いかけっこをする
ふと、夢の世界に逃げた人々を思う
彼らは幸せだろうか
おとぎ話では、彼らは幸せな結末を得るために
世界を何度もやり直すために
世界から姿を消したという
「俺だって、やり直したい」
「成功するまで、何度だっても……」
しかし、チャンスは一瞬なのだ
失敗すれば、それで終わり
「やるしかないんだ」
ふいに影の機体の動きのパターンが変わる
仕掛ける気かもしれないと、彼は恐れた
チャンスは今しかない
「行く……しか」
突然、彼の機体のスピーカーから音がする
若い少女の笑う声
何かを語り合う、幸せそうな声
どこかからの混線だろうか
しかし、こんな幸せそうに笑う人など、この世界にはいない
次の瞬間、世界がぶれて見える
極彩色のイメージが目の前に広がる
全く同じ自分の機体なのに
様々な幸せそうな写真が飾ってある
操縦レバーを握る手は、少女のように細い
そして両腕にあるのはのこぎりではなく、様々なジャンク品
「もしかして、夢なのか……?」
夢の世界を見ているのか?
もうすぐ夢の世界に行けるのか?
そして、自分はもう一度、やり直して、
幸せな結末を……
ビープ音
日に焼けた液晶が見えた
紛れもなく、錆びだらけの自分の機体の
《テキ セッキン ユメハマボロシ メヲサマセ》
「ああ……あああああ!!」
操縦レバーを振り下ろす!
回転のこぎりが影の機体を捉え、両断した
一瞬だった
あまりにも長く思えた幻惑は、一瞬だったようだ
もしかしたら、行けたかもしれない
夢の世界に逃げ込めたかもしれない
けれども……
「俺には、この一瞬しかない」
「錆びた世界で、生きることが、俺の……」
言い訳は思いつかなかった
ただ、彼は思ったよりもこの……錆びた世界が好きなのかもしれないと
思い始めていた
思いは、捨て去るときに最も高まる
もし捨てられないのなら、それはそれで、美しいのかもしれない
《オメデトウ ナカナカヤルナ テキゲキハ》
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死ぬのが嫌なら、簡単さ。破壊される前に、破壊してやるんだ
――ハルシオン・スートラ《ミラー大将》
ハルシオンは春風を告げる鳥
そして、清浄なる川辺に飛ぶカワセミ――
翡翠経典は解体された宗教団体『ヒルコ教団』を母体とする勢力
その教義は、秘伝となっている書物、翡翠経典の解釈による
翡翠経典は誰も読むことができず、口伝のみその解釈が伝わる
これは、真なる「原理」を廃することで正統性を持った言説を封じるという
それもまた解釈の一つである
大体に一致する解釈は以下のとおりである
・本人の自助による救済
・神々と下界との相互不干渉
・神々と下界との相互影響
・欲望や迷い、怒りの否定
といったものが挙げられる
これを信じ、翡翠経典の元生きる者たちは
この滅びゆく世界の中、救済にすがって生きている
ヒルコ教団の悲願である神の復活がなされ
役目を終えたヒルコの神は滅び
そして……
この世界には、滅びと人々だけが残されたのだ
――
翡翠経典第一軍
第一機甲師団師団長
永遠に限りなく近づいたもの、ミラー大将
彼は2か月ぶりの組織定着を終え
再び17歳の身体を取り戻した
魂の年齢は、38歳を数えている
ただ、彼は20歳の時、大きな事件に巻き込まれた
大けがを負った彼は、自らの肉体を捨てる決断を迫られる
肉体の完全なる培養組織交換手術
いわゆる、新生体である
脳も含めた、身体の100%をバイオ生体と交換する
それによって、彼は永遠に17歳の肉体を手に入れたのだ
ミラーは、目を覚ます
また、例の夢だ
自分が自分でなくなる夢
自分が見知らぬ誰かになって
知らない誰かと笑い
知らないところに暮らす夢
迷いを断ち切れ
恐れを、消し去る
そう、教えられたはずだ
それでも、ミラーは常に死の恐怖と戦っていた
いくら若くとも
いくら、健康を手に入れても
運命の到達する距離は万人に与えられている
死が、迫っている
フェイタルポイントの距離を実感したのは
一度や二度ではない
それでも、奇跡的に距離は伸び
いまは計測不能の安全地帯にいる
もしかしたら、自分はもう死んでいるのかもしれない
そう思うことが増えた
知らない誰かの記憶は
死んでしまった「前世」の記憶
そして、自分は新たな17歳となり、いつか死に
そして、次の自分の「前世」となる
そんな妄想を繰り返していた
「いやだ」
ミラーは迷いを断ち切り、
自分のグレムリンに乗り込んだ
ここは魂が安らぐ
ここにいるときだけ
ミラーは穏やかに過ごせる
なぜなら、知っているからだ
自分は絶対に生きて帰る
この機体、自分の専用機であり、翡翠経典最強のグレムリン
アンリミテッド・フレーム《ジェイド=エリュシオン》
なぜなら、運命への距離がまだ、その時を示していないのだから
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破壊すればいい。君がいつも、そうしているようにな。勝手に破壊していろ
――デルフィニウム・ディビジョン《ツルギ中将》
デルフィニウムの花は、自由の青に咲く
それは海の果て、天体が沈む深く深い青と青の境界――
青花師団は、厳しい外洋の荒波の中で、互いを助けるために自然と結成された
外洋は危険だ
巨大な空母もまるで木の葉のよう
資源の枯渇
食料と水の確保
襲い掛かる「脅威」
そして、肥え太っていく他勢力
それらの圧力を躱し
海の荒くれは生きていた
海賊まがいの存在は、いつしか高い目標の元
秩序を形成していった
絶滅した花、デルフィニウムの紋章
その下に集った自由の船乗りたち
ツルギ中将も、そんな一人だった
――
青花師団
第一師団、第29掃海隊旗艦、重巡洋艦《モルフォ・マム》艦長
渦巻く青い煙香の菊花、ツルギ中将
彼の部屋は、常に香が焚かれ、常に煙っぽい
反霊香、というキク科の植物を乾燥させた香だ
これは別に蚊に刺されないとかではない
ただ、失われた心を取り戻す、とだけ伝わっている
モルフォ・マムは航海を続けていた
第29掃海隊は、外洋最強と称えられる青花第一師団の構成である
空母1隻、重巡洋艦1隻、軽巡洋艦7隻、駆逐艦16隻からなる
モルフォ・マムは青花第一師団の主砲であり
かつて存在した戦艦の面影を残す骨董品である
ツルギ中将はそんなモルフォ・マムの艦長であり
優秀な指揮官であり
後は煙に揺られてまどろんでいるだけの人間である
彼はグレムリンに乗らない
指揮官だからだ、と彼は言う
ツルギは目を閉じる
艦長室の煙が、彼のまぶたに幻覚を見せる
18年前
少年だった彼には、同い年の友人がいた
二人でおんぼろの空母から、かつてのモルフォ・マムを見た
「いつか、あれに乗って戦うんだ」
幼いツルギはそう言った。友人は笑った。本気だ、と怒るツルギ
(なつかしい記憶だ)
いつものように、悪夢が始まる
重粒子投射実験
失われた船に、ツルギはいた
目の前で倒れる友人
両手に降り注ぐ粉塵
友人から漏れる赤
見上げると、そこには、空中を疾走する虹色と、
――原初の、ゴースト・グレムリン
目を覚ますツルギ
(昔の話だ)
コーヒー淹れ、反霊香にコーヒーの香りが混じる
やがて彼は見るだろう
空中を疾走するグレムリンを
(……)
ゴースト・グレムリンは友人を救ってはくれなかった
それから、ツルギは――
ずっと、一人だった
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破壊だ! 破壊しろ! すべては、海に浮かぶゴミの塵だ!
――レッド・コネクション《ガーネット少将》
真紅連理は、全ての市民の意思を統一し、完全なる社会を生み出すことを目指していた
連理の枝がどこまでも続く。一つになり、繋がり合う社会を
そして、その枝の向かう先は……
―――
真紅連理
第二艦隊旗艦、空母《ディープ・ラビットアイ》総司令
ガーネット少将
彼は苛立っていた
新世界秩序に、だ
18年が過ぎていた
15歳の少年だった彼が、大人になるほどの時間
社会は変わっていった
全ては、テイマーズ・ケイジを中心として
真紅連理の筆頭市民の息子として、何不自由なく暮らしていた彼は
15歳の時、初めての大きな失望を抱く
最強と信じていた
絶対と信じていた真紅連理
それが、テイマーズ・ケイジに降伏する姿を見たのだ
苛立ちは、そのころから途切れることはない
悔しいが、テイマーズ・ケイジは強かった
量産型ゴースト・グレムリンには、あらゆる通常兵器が通用しなかった
不可視の壁、ゴースト・シールドによって弾かれる砲弾
超常の転移でもって肉薄し、全てを無視して粉砕するゴースト・ブリンク
常識を超えた「力」を見せつけられた
苛立ちが募る
眉間には皺が寄り、戻ることはなかった
どうすれば勝てる?
どうすれば、戦況を覆せる?
グレムリンに対する、激しい嫉妬と、歪んだ羨望が彼を根本から変えてしまった
最終的に真紅連理はテイマーズ・ケイジの軍門に下った
そして、グレムリンを……
不完全ながらも、最強のグレムリンを
機能制限された、おもちゃのようなグレムリンを「譲ってもらった」
苛立ちは、とどまることはなかった
テイマーズ・ケイジの裏に見える「傲慢」が、どうしても許せなかった
来年、テイマーズ・ケイジは再び「グレムリン大隊」を招集するという
そして、世界を破滅に導いた七月戦役の「断罪」をするという
三大勢力や、中立であるグレムリン傭兵には関係ない、奇妙な祭り
裁かれるのは、自分たちであることは分かっている
足搔いてみせる
グレムリン傭兵……テイマーズ・ケイジより、機能制限解除グレムリンを与えられ
それでもなお、テイマーズ・ケイジや他の勢力に属せず
自由に生きる傭兵たち
彼らの力を借りねばなるまい
彼は苛立っていた
苛立ちを止めるために
全てを用意した
グレムリン大隊……不愉快な存在だ
テイマーズケイジ直属のエリートのみ選ばれた、ぎらついた勲章
彼は知っているのだ
真紅連理を降伏させた、最初のグレムリン大隊は、そんな奴らではなかった
本当の「力」であり、「破壊」だった
その威を借りて、肥え太っていくテイマーズ・ケイジが、何よりも不愉快だった
「見せてやる……俺の、真紅連理の『グレムリン大隊』を」
日は西に沈み、ほの暗い空には巨大な銀河が後を追って沈もうとしている
――何かが起こるな
すっと苛立ちが消え、彼はほくそ笑んだ
その引き金を引くのは、ほかならぬ彼自身だった
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粉塵は古来より、生活の様々な様式に影響を与えてきた
最も影響を与えたのは、服であろう
清浄でない外気に晒される場所の服は決まっている
それが、フィルタースーツと呼ばれる防護空調服だ
大きく分けて2種類
LL式と、Ft式がある
LL式はぶかぶかのスーツで、服の上から着ることができる
中には十分な量の空気を循環させることができる
これは気密性が高く、海上では救命胴衣の代わりにもなる
フィルターは胸についているものが多い
Ft式は服の代わりに着るぴっちりしたスーツである
粉塵が付着しづらい滑らかな素材でできており
エアシャワーを浴びると綺麗に粉塵を振り落とすことができる
フィルターは首についており、ヘルメット内部のみ空気を供給できる
いわゆる一般的な服飾は、この世界では屋内の清浄な空間でのみ着る
タワーや一部の大型艦船には、「テラリウム」と呼ばれる温室が存在し
ガラス張りになっていて、清浄な空気を満たしており
そこでは逆にフィルタースーツは無粋とされ
かつての文明の痕跡を演じるために、服というものを着飾る