"てぃーこらむ"カテゴリーの記事一覧
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炎が燃える
逃げ惑う人々
これでよかったんだ
これで……
彼は、魔王である
魔王は、魔法使い種族の中でも最も古い一族である
その力は創造と支配
けれども、その歴史はいま黄昏の時を迎える
一度は、魔の王として君臨し、あらゆる富を独占した
それが、あの――スーパーデプスを貫いた破壊の光のその後に
全てが失われてしまった……何もかも
彼の目の前には、家が焼け、崩れる村人がいる
これで同じだ
僕と同じだ
彼は、どうしようもなく昏い気持ちのまま静かにそれを見ていた
失われた
全て失われた
富が失われるのは一瞬
財産も一瞬
命も一瞬である
彼は、村を焼いた
焼きつくし、奪いつくした
必要に駆られてではない
止めるものがいなかったからだ
村人は抵抗もできずに、燃える全てを見ている
いつからだろう
富は築くものから、奪うものになった
彼は奪われてきた
何もかもを、世界から取り上げられた
そして、惨めな気持ちのまま、500年が過ぎていた
もう、奪われ続けるのは嫌だ
奪うのは、僕だ
振り向いて、炎を背に歩き出す
どうしてだろう、渇きが癒えない
飢えを感じたまま、歩き続ける
こんなにも惨めな気持ちは
こんなにも無力な自分は
何を奪えば打ち消せるのだろう
魔王の栄光は
幸せな日々は
何を奪えば手に入るのだろう
そんなものはない
そんなものは、ゼロだ
彼は、静かに魔王領域へと帰還した
そして、空虚な玉座に腰を掛ける
「僕はもう、壊れてしまったんだ」
壊れてしまったものは
二度と元には戻らない
何を奪っても
何に手を伸ばしても
もう何もないのだPR -
明日を感知するのは
いつも、今日の忘却から
記憶は流れゆく
昨日の自分は遠く去りゆき
いまの自分すら、砂のように零れ落ちる
彼女は魔王である
そして、猛り狂うように勝利を目指した
彼女は常に勝利を掴む
一度たりとも、負けたことはない
彼女は破壊の術を使う
勇者が魔王城を進むより早く
彼女の手下、サイキックが勇者に襲い掛かり
一瞬でバラバラに破壊し
塩の欠片と葬る
彼女は鉄の心臓を持つ
それは、溶鉄のように燃え盛り
時には氷のように冷たくある
「どうした、この程度か」
今日もまた勇者を塩の柱にした
他の魔王を狙う勇者すら射程に入れる
そうして、捕虜としてしまう
手にいれた捕虜は、マーケットで換金できる
いや、換金しなければならない
放っておくと勇者は復活する
勇者の魂を完全に破壊することはできない
静かなうちに、マーケットに払い戻すのが一番だ
というわけで、彼女は捕虜を……次なる勇者の影を求めた
配下のサイキックが、超常の力でもって索敵する
「いた」
電光のように駆け出すサイキック
勇者は意外にも近くにいた
壁だ
カーテンのように壁が下りている
その向こうは闇に隠れ何も見えない
ただ、地面を横に走るラインが、全てを飲み込み
こちらに向かって接近している
魔王城を荒らす前に撃退しなければならない
でないと、いきている勇者はこちらの捕虜を解放してしまう
一刻も早く
サイキックに指令を飛ばし、彼女は全神経を集中させた
いつからだろう
闘いの日々に麻痺していくのを感じる
勇者を探す
勇者を倒す
勇者を探す
勇者を倒す
繰り返していた
向上心はある
最強を目指して彼女は歩いている
けれども、急に寂しさを覚えた
この戦いに意味はあるのだろうか
勇者はどうせ倒しても復活する
稼いだ金は、城の維持費に消えていく
欲しいものは何もない
飲みたい酒もない
ただ、戦うために戦い
戦うために全てを勝ち取り
戦うためにすり減らしていく
「いやだ」
どこかでレールを抜け出したかった
勇者はサイキックを飲み込むべく接近している
ここで勇者を破壊しなければならない
彼女は敗北を思った
ここで頑張るのをやめて
全てを捨てて
遠くへ行って
静かに眠ろう
そう思うと、視界が涙で歪む
結局、戦った果てに手にいれたものは何だったのか
自分を追い詰めて、追い詰めて
何も手にいれたものはない
忘れよう
すべて忘れて
ただ生きるだけの存在になって――
何をしようか
何でもできる
何にだってなれる
じゃあ――
「私は、それでも、お前を倒す!」
サイキックが稲妻を迸らせる!
それは黒い壁に吸収されていく
まだ、威力が足りない
「ならば、数で攻める!」
サイキックが次々と現れ、黒い壁に向かい
一斉に電撃を放つ!
闇が風船のように膨らんだかと思うと
次の瞬間、七色の紙吹雪を吹き出して破裂した
そして、断片は全て塩の結晶となり、地面にばらまかれる
結局は、同じなのだ
何度やり直しても
何度後悔しても
何度スタートラインに戻っても
結局は、彼女は戦い続ける
それが、彼女の生き方なのかもしれない
いずれにせよ……
彼女は前を見た
今まで何を掴んできた?
そんなものは関係ない
忘れていけばいい
答えはいつも、同じところから始まっているのだから
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彼は、配下のアルラウネに指令を出した
勇者はすでに幹部の部屋を攻略し、
魔法陣へと差し掛かっている
敗北が近づいている
しかし、彼は、攻めの一手を崩さずにいた
魔法陣の中心で勇者を待つアルラウネ
視界を共有し、勇者を待つ彼
やがて、三角形の破片が次々と魔法陣に侵入する
それはヨウ素の結晶のように不安定で、尖っている
雪のように舞い込んだ紫の破片は、アルラウネの周りを漂い始めた
あれは、勇者だ
時には戦士の形を取り
時には貴人の姿となり
その正体は、このような不可思議な存在である
アルラウネは歌い始める
勇者とコンタクトを取ろうというのだ
これは指令の通りだ
アルラウネを指揮する彼は魔王だ
本来ならば、勇者を撃退するのが定め
しかし、勇者は魔王を破壊したい
無用な戦いを避け、体力を温存したい勇者
そして、魔王は資産を増やしたい
資産を増やすことで、さらに評価され、多くの配下を雇える
両者の思惑が一致すると、交渉は成立する
勇者は護衛に金を渡し
護衛は契約に従い勇者を素通しする
これが、和解戦法である
もちろん、体力を温存した勇者は、最終的に魔王を追い詰める
つまり、和解してお金を稼ぐことは、
自らの破滅のリスクと引き換えなのだ
そうしてまでお金を稼ぎたい理由が、魔王の彼にはあった
彼には同期の魔王がいた
同期……といっても、すでに遠くの存在になっている
同期は上手に資産を稼ぎ、あっという間に上位階層へと昇って行ってしまった
彼はというと、下位ブロックに配置されたまま燻っている
彼は、怠けているわけではない
ただ、彼の何かが時流や何かとかみ合わない
努力しても、同期の方がもっと先へと進んでいく
最初は、二人とも同じ場所から始まったのに
同じ年に同じように魔王に覚醒したのに
同じように練習して、
同じように夢を追っていたのに
いつの間にか、彼は息を切らして全速力で走っていた
体力の限界まで振り絞って生きていた
けれども、もう一人の彼は涼しい顔で、ずっと先にいる
いつからだろう
並走していたはずなのに
背中を見上げて這いずり回っていた
彼は迷った
何が間違っているのだろうか
彼は何もかもを試した
きっと、追いつける何かがあるはず
疲弊していた
もう、夢を追いかけるどころか
一歩でも前進することしか考えられない
彼は、それでもその視線をもう一人の彼に向けていた
追いつくしかない
俺には、それしかない
自分に言い聞かせるように、和解戦術に手を染めていた
ギリギリまでお金を稼ぐ
ギリギリまで、評価を稼ぐ
一歩でも間違えば、奈落の底だ
奈落
そう、もうすぐ勇者を倒さなくてはいけない
奈落に設置した罠が、わずかに勇者の体力を削いだ
決めるしかない
この魔王領域で
すなわち、彼の居場所である
彼は目を閉じた
キシキシと勇者が舞い降りる音がする
一撃で倒さなくてはいけない
そして、それにふさわしい技があった
魔王攻撃
魔王自らの手でもって、勇者に攻撃する
その威力はすさまじい反面、
自らを勇者の前に晒す危険がある
失敗すれば、死が待っている
彼は目を開け……視界を手にいれた
勇者が目の前に佇んでいた
一瞬、彼は死を思った
もう、頑張らなくていいのかもしれない
もう、追いかけなくていいのかもしれない
もう、休んでもいいのかもしれない
もう、夢を見なくてもいいのかもしれない
そう、彼は――
いや、「彼女」は、勇者の手を取り、代金を受け取った
勇者は魔王領域を破壊する
和解してしまったのだ
彼……いや、彼のアルラウネだ
魔王領域に忍ばせていた、最後の砦
アルラウネが、勇者と和解してしまったのだ
「負けたか……」
彼は、どこか遠くから、視界の共有を切った
命を懸けることは、一度もなかった
彼は、負けたくなかったからだ
たとえ勝てなくても
追いつけなくても
夢に決して届かなくとも
這うように進むことしかできなくても
どれだけ差が開こうとも
彼は、追い続ける限り、もう一人の彼と――
共に走っているからだ
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雨滴はいずれ石を穿つという
たとえ、ほんの少しの力だとしても
幽霊屋敷だった
暗闇の罠で囲まれたフロア
尖兵として召喚したゴースト
霊堂を各所に配置してある
知の輝きの溢れる城だった
魔法の威力は知性でもって強化され
魔法効果で勇者の踏破を遅らせる
ところが――
彼女の幽霊屋敷は
火炎魔術勇者の炎上投射によって半焼してしまった
焼け跡に一人たたずむ
暗闇の罠も
霊堂も
ゴーストも燃えてしまった
罠は破壊され
勇者の侵攻を許し、撃破が遅れた
勇者はゆっくりと炎上をばらまき
幽霊屋敷のいたるところに延焼した
作戦は失敗だった
「終わりだ……」
ユニットは財産である
ひとたび召喚しそびれば、手に入らないものもある
焼けた炭を拾い、握って砕いた
もうすぐ勇者の侵攻が始まる
防衛設備を再建させ
完璧なプランと共に、売り上げを稼がなくてはいけない
今日のマーケットは寒々としていた
欲しいものがなく
つまりは、やりたいプランが見つからない
途方に暮れて、彼女は空を仰いだ
自分のやりたいことって何だろう
何をして戦えばよかったのだろう
先ほどの幽霊屋敷は、自分の中で最高傑作になるはずだった
けれども、それは消し炭と消えた
どうすれば、上手に生きれるのだろう
どうずれば、ブレずに進むことができるのだろう
それは、あやふやな煙となって空に伸びていた
「もう、諦めたい」
「何をあきらめるんだね?」
生き残ったゴーストが、彼女の隣にいた
「戦うことを」
「諦めるのも、また、戦うことだよ」
ゴーストは冷たい空気を纏いながら、焼け跡から伸びる煙を吹き飛ばす
「諦めた私は、負け犬だ」
「勝つことは戦うことだ。負けることと同じように」
彼女は、膝に手を突き、深くうなだれる
勝算はない
プランすらない
そして、時間は迫る
「どうすればいいの?」
「貫けばいい。自分を」
「それじゃ勝てない」
「それもまた、戦いの結果でしかない。貫けばいい。勝利も、敗北も」
焼けた炭に、一滴の涙がこぼれた
「私には自分がない。無を貫くことはできないよ」
「初めて魔王城を組み立てたことを、覚えているか?」
「昔のことだよ。今よりずっと下手だった」
ゴーストはゆっくりと空気に溶けていく
朝日が、彼の向こうに見える
「構わない。最初に戻っていけばいい」
「それじゃ勝てないよ」
「勝つというのは、誰かを打ちのめさねば得られぬものか?」
「君は、君自身を取り戻す。それは、最初のトロフィーの形と同じだ」
「……」
彼女は、ゆっくりと召喚を始める
ゴーストを従えた、冷気の城
「そうだ、それでいい。君は他者に打ち負かされるかもしれない」
「だが……」
ゴーストは、勇者の鼓動を見つけ、空を駆け上っていく
「君自身を失うよりずっといい。そして君には帰るべき始点がある。何度でもそこへ戻ってよい。その時君は……」
「何度でも君自身を取り戻すのさ」
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スイッチを入れる
仕組みが作動する
そして、目的は達せられる
「シンプルなことなんだ」
彼は、静かに座していた
配線の張り巡らされた小部屋
そのすべてが、彼の城に行き届いている
まるで神経のように、ケーブルは伸びていた
その中枢
コントロールパネルであり
配電盤である場所が
この魔王領域である
彼は電気の魔法を操る魔王であり
そして、罠に長けた魔王でもあった
もうすぐ勇者がやってくる
勇者がやってくれば、戦いになる
しかし、彼自身剣を振るうことはない
こうして、遠くから罠を作動させて
全てを手中に置いたまま勝つ
「シンプルな、ことなんだ」
彼は負けが込んでいた
強力な罠にも弱点がある
それは、単に敵を撃退しただけでは評価されないということ
この階層は、全てを能力主義的に評価して、選別している
強いもの
優秀なもの
才のあるもの
そういったもの以外を振るい落としてしまう
勇者からお金を奪い取り、価値を生み出さねばならない
そのお金は、定期的に徴収されてしまう
払えなければ、手持ちの罠を売って賄わなければならない
そして、彼の投資に対して、収入はあまりにも少なすぎた
このままでは、何もできなくなる
何もできなくなって、地べたを這いずるように生きるほかない
どうすればいい?
「シンプルな……ことなんだ」
勝てばいい
全てを、掴み取ればいい
そして、自らを誇れるようになればいい
何が強い?
何が秀でている?
自分の才能とは?
自分自身に問い続けた
そして、答えはいつも同じだった
「俺は、機械だ」
勇者が近づく
見張り台がぴりぴりと震える
そこにあるのは瞬間移動の罠だ
瞬間移動の弊害、強力な通電効果を
逆に殺傷性強化し、罠として転用したもの
計算は完璧
強さってなんだ?
何が優れている?
才能?
そんなものは迷いだ
自分は機械となる
スイッチを入れる
それで、機構が作動する
それでいいじゃないか
勇者が近づく
彼は、スイッチを入れた
感電しながら一気にエントランスに叩き込まれる勇者
そのまま、連続してアラームの罠にかかる
遠くで勇者がバラバラになり、塩の欠片となって散った
美しい
機械は、美しい
それでいいじゃないか
スイッチを入れる
仕組みが作動する
そして、目的は達せられる
「シンプルなことなんだ」