"コラム"カテゴリーの記事一覧
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レジスタンスは戦い続けていた
解体され散り散りになった熾天使旅団と辺境自由同盟を拾い上げ
集められた精鋭たち
全員がWHで武装する辺境最大の武装組織へと成長する
まるで小川が次々と交わり、大河にそそぐように
虐げられ、追いやられ、踏みにじられた人々が集まっていく
彼ら一人一人の力は僅かな埃にも数えられないほど小さいかもしれない
けれども、戦いこそが、パイロットこそが彼らの力ではない
あるものは物資を寄付し
あるものは資金で援助し
あるものは他の方法で力を託した
レジスタンスの中隊の一つを任せられたのは、まだ幼い顔つきの残る、
狼のような戦士
ルオシュ。かつての軍団長の子息
彼にはまだ経験も知識もない
ただ、あるのはアンセトルド・ユニットへの高い適性
そして、アンビエント・ユニットを理解できた感性
ルオシュは今日も操縦棺内部で夜を過ごした
そしてそのまま眠りにつくいつもの夜だった
この日は、眠るのが少しだけ遅かった
緑色のシステムログが延々と流れる暗い操縦棺の中
彼は静かに瞑想していた
戦いの興奮の反動は静寂でしか癒すことはできない
「ルオシュ、旅は好き?」
ルオシュは答えない。スピーカーから聞こえる、幼い少女のような声
「旅は、家に帰るまでが旅なんだってね」
ゆっくりと闇の中目を開けるルオシュ
モニターに映るVOICE ONLYのアイコン
「帰る家が無かったら、終わらない旅を続けることになるのかな」
「ここが君の家だ。そして、君は何処へも行く必要はない」
ルオシュはまるで祈るように腹の上で手を組み、静かに瞑想から眠りへと移行した
薄れゆく記憶の中で、少女のような声が続く
「ルオシュ、ΑΦΡΟΔΙΤΗはまだ旅を続けたいんだよ」
「俺も同じ気持ちだ」
「ΑΦΡΟΔΙΤΗには無限の未来がある」
「俺も同じ気持ちだ」
「じゃあ、ぼくの次の言葉も、ルオシュと同じだね」
ルオシュからの返事はない。彼は静かに寝息を立てて眠りについた
スピーカーから聞こえる声
「ΑΦΡΟΔΙΤΗは無敵だよ。帰る家がもう無いもの。だからΑΦΡΟΔΙΤΗは永遠に旅を続けて、永遠に敗北も勝利もしないまま、ΑΦΡΟΔΙΤΗは……いや、彼女が生まれた時からずっと、ΑΦΡΟΔΙΤΗは……」
次の言葉は続かなかった
静かな棺の中には、ルオシュの寝息と、虫の鳴き声のような機械の駆動音だけがあった
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「こちらイオノスフェア要塞守備隊」
「定時連絡。異常なし。どうぞ」
イオノスフェア要塞は巨大な盆地に存在する要塞である
まるですり鉢のようなクレーター構造
これはアンテナとして機能すると言われている
「こちらイオノスフェア要塞守備隊」
「地震を観測した。震度1。たいしたことはない。珍しいが……」
「スロット1。ヴァリアブル・ウィンド・ユニット……正常機能」
「地震を観測……おかしい。自然の地震ではない」
「スロット2。フォックストロット・ブレード・ユニット……正常機能」
「異常事態発生! 地震じゃない! 何かが歩いている! 大きい……大きすぎる!」
「スロット3。ハイドロフォビア・ウルフ・ユニット……正常機能」
「防衛隊……壊滅! ダメだ、何が起きている……全部、凍り付いて……『禁忌』の力さえも、通用しなかった……」
「全システム正常機能。完全だ。そして、完璧だ」
「つ、繋がっていたら……聞こえていたら……巨人が……霜の巨人が現れ……およそ50メートル……いや、60……? 歌が……聞こえる。寒い……」
イオノスフェアは謎の未確認機の襲撃を受けて陥落した。その知らせを聞いた企業連盟の長、バルーナスは、力なく椅子に倒れこみ、蒸気アイマスクで目の疲れを癒したという
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ヒルコは霊である
1000年前より続く降霊の儀
先代の巫女の身体が滅びるたび、新たな巫女が選ばれる
巫女の身体を依り代とし、新たなヒルコを襲名する
かつての覇権戦争
辺境自由同盟
デスケル重工
熾天使旅団
白兎生体化学
そしてヒルコ教団が新たな指導者の座をかけて争った戦争である
いまはその面影はない
ヒルコ教団もまた、抗争に敗れ、勢力を減退させていた
それでも教団は辺境に活路を見出し、進出し、そして生きながらえた
教義は極めて混沌としている
ただ、その中心には「永遠」がある
不老不死とは少しニュアンスが違う。ヒルコ教団によれば、不老不死は永遠ではない
生きることは変化の連続である。明日と明後日は全く別の自分である
それが無意味に続くことは、永遠不変とはかけ離れたものである
ヒルコは一瞬である。ヒルコは瞬く光である
一瞬ですべてを決し、永遠不変とする
生まれた瞬間に、彼の永遠が始まる
だから、辿り着けもしない永遠を無意味に過ごす必要はないのだ
なぜなら、永遠に到達した瞬間に、それまでの全てが決定し、彼は永遠不変となる
それは死であっても、打ち砕くことはできない悟りである
ヒルコは目覚めた。先代のヒルコは、抗争に敗れ、敗走のさなか、滅びた
いま、新しきヒルコが目を覚まし、歯を磨き、顔を洗った
彼女はヒルコを降ろしたときから永遠になった
変わらぬ毎日をいつものように過ごし、自堕落な毎日を過ごす。時には教団の仕事をする
時代は変わる。全てが滅びゆく。それでも、ヒルコは永遠を見つめている
テレビに映るのは、華やかなハイドラライダー
彼らのように生きる道もあっただろうか
それでも、ヒルコはヒルコの生き方しかできない
朝食を食べる。缶詰のおかずに、冷えて固くなった米。教団の経営はうまくいっていない。企業連盟のように生きれたら、それはそれで楽しいだろうか
シャワーを浴びて、髪をセットする。櫛で梳かした髪はすらりと素直に流れた
どうやら今日はいい日らしい
「ヒルコの生き方もたのしいぞ」
ふと、呟く。湿気を吸った畳にしみこんで消えた言葉
ヒルコは変わる必要がない
なぜなら、生まれた時からヒルコはヒルコで永遠であり、不変であり……それが最も良い生き方だからだ -
HYPER-DIMENSION-RESULT-ACTIVATOR
H.Y.D.R.A CONTROL SYSTEM
...ALL GREEN
「俺は……やれるはずなんだ」
穴だらけの機体。すでに貯水も残弾も全て吐き出し、胃液すら残らないどん底の戦場
「くっ……ポンコツが!」
蹴り上げたモニターに映るのは、謎のシステムメッセージだけだ。むしろそれはありがたかったのかもしれない。戦友たちは皆、塗装一つ剥げていない美しい機体を駆り、次々と敵機を撃墜していく
もうすぐ戦闘は、あっけなく終わりを告げるだろう。戦友たちは笑いながら言うはずだ
「今日も退屈な戦いだったよ」
ぎゅっと目を閉じ、自分の惨状を見ないようにしていた。自分はというと、遊び半分で戦場にお邪魔して、どういうわけかボロボロになって、酷い評価のメッセージを受信する
本気にならなければ、美しくなれない。自分には、錆だらけのポンコツがお似合いだというのか。そんなことを思う
「くそっ……悪かったよ。ポンコツだなんてよ」
蹴ったモニターの足跡を拭く
「俺とお前はよく似ているんだ」
休暇続きでろくに整備されていない機体。型落ちのパーツ
「俺だって、本気になりたいよ。でもできないんだ。そう、お前だってそうなんだろう」
SYSTEM...OVERLOAD
RESULT...PERMIT
ACTIVATOR...START
表示が変わる。モニターの表示が
「応えてくれたのか? いいさ、俺とお前の仲だ」
SYSTEM...OVERLOAD
STASIS...PERMIT
ACTIVATOR...START
「敗戦記念に、帰ったらワックスかけてやるよ」
ACTIVATOR...START
「おいおい、なんだこの音は……」
ACTIVATOR...START
「お前、壊れちまったのか?」
ALL ACTIVATOR...RUNNING
それは
最初に見えた可能性の
ほんの些細な片鱗にすぎなかった -
一枚の写真がある
色あせた写真だ
最後のコロッセオのメンバーである
コロッセオによる興行はここ10年ほど行われていなかった。理由は、観客のコロッセオ離れと言われている。演出的にも陳腐化し、選手からスターが生まれることもなく、先細り、ついには閉鎖されてしまった
最近のことだ。鋼鉄レギュレーション、つまりはハイドラ対通常兵器の一方的な狩りを中継し、撃墜数や戦闘時間について賭けを行ったり、応援しているハイドラの活躍をスポーツバーで見たりする
「こんなのは競技じゃない」
薄汚れたスポーツバーの片隅で、薬臭いジンライムを飲みながら、一人の男がモニターを睨み上げた。見なければいいのに、身体は熱を求めている。あの時の興奮を全てが覚えている。水のように薄いジンライムを飲んでも満たされない、そう、彼は本当のコロッセオを知っていた
「俺はチャンピオンだ」
誰にも聞こえない声で自分に言い聞かせる。彼は10年前、最後のコロッセオリーグでチャンピオンとなった
ファンも減り、スポンサーも減り、みすぼらしい優勝カップを掲げながらも、彼は確かにチャンピオンだった。彼は知っていた。本当のハイドラの戦いを
命を懸けた戦いだった。当時は跳躍レギュや飛行レギュ、索敵レギュなど複雑なルールが存在し、地下通路で、荒野で、高所で、そして競技場でテクニカルな戦いを披露していた
「本物を……見せてやりたい」
コロッセオの復活は、彼にとって耐えがたいものだった。あまりにもぬるすぎる戦い、あまりにも刺激のない展開。しかし、それこそが観客の求めていたものだった。タレントのトークや応援の読み上げで番組のほとんどが埋まる。見た目麗しいハイドラライダーの特設コーナー、ドラマティックな半生の紹介……支える家族や友人の声
「チャンピオンには……必要ない」
興行は観客を向いていなければならない。時代の流れは重々承知。けれども、彼にとってコロッセオとは暴力の檻だった
人間性を捨て野獣の牙をむき出しにして、命のやり取りをする暴力だった。それについていけなくなった観客が離れ、コロッセオは消滅した
「俺は……」
モニターが切り替わり、重大発表が告げられる。レギュレーションの発表。ハイドラ同士の戦い。名乗りを上げたエントリー者……
「俺は時代遅れだからよ……」
写真と同じだった。当時の記憶のまま、色あせていくだけの人間だった。手帳には今も写真が挟まっている。過去の栄光、過去の青春、過去の……枷
年齢的に衰えを感じる。10年という歳月は彼のすべてを奪い去ってしまった。もはや機体やライセンスすらない
ジンライムを呷る。ネオンがきらめく。彼はモニターに手を伸ばした
掴める気がした。あまりにも弱い握力で、当時の暴力を
「時代遅れだから、つい昔話をしちまうんだ」
手を下ろす。チャンピオンは席を立った。また見に来るのだろう。そして、最近の若いライダーは……と愚痴をこぼすのだろう。涙を浮かべるのだろう
けれども、彼は……また来てしまうのだ
なぜなら、彼の掴んだ栄光の瞬間は……受け継がれているからだ。今を生きるライダーに
モニターの向こうで笑うライダー。牙をむき、隠しきれない暴力を秘め
最後にモニターを振り返って、それを確かめた後、右腕を再び伸ばし、握った
栄光を掴んだ握力は衰えても……握った感触は決して忘れられない
「グッドラック。お前が新しいチャンピオンかな?」