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霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

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霧のコラム「要塞の跡に」
リソスフェア要塞は陥落した

機動DR部隊の波状攻撃を受けて崩壊寸前であった防衛ラインになだれ込んだのは、無数のハイドラ大隊であった

戦略地図の浮かぶ薄暗い部屋で、メルサリアはにやりと笑みを浮かべた
身体は10代の少女に見える。だが、その知識は1000年の古狐と同じである。それは完璧な人間を意味するものではない。老人の思考が衰え晩節を汚すことの多いように、メルサリアの思考にもほころびが出ていた

「もうすぐ、もうすぐだ」

まるで子供のような無邪気な笑顔。知識こそ完成していたが、彼女の思考はむしろ見かけ相応になっていた

「再起動技術、リソスフェアの遺産。私はそれを手に入れた」

子供は手に入れたおもちゃをすぐに使いたくなる。メルサリアも同じであった。戦略地図は目まぐるしく変わる。ハイドラ大隊が中枢に踏み込む、わずかばかりのトーチカを生成した後、防衛戦力は沈黙した

それはすでに1週間前の出来事。子供が同じビデオテープを何度も繰り返し見るように、メルサリアはそれを幾度となく繰り返す

再起動技術

それは残像領域に残された遺産である。一度滅びたものが、再び全盛期の力を取り戻す。その原理はもちろん分かっていない。クローン技術も、再起動技術を応用しているとされている

基礎が全く抜け落ちた、応用だけの分野である

一度撃墜された機体と、同じものを用意できる。おそらく、マーケットの主は再起動技術を完璧に保持しているだろう

メルサリアはそれが気に食わなかった

彼女はかつて一度だけ、マーケットの主と接触した。そして、「応用」だけを教えられた

「教えられるのは、それだけだ。知識の中枢には、お前の独力で辿り着くがいい」

1000年がたち、いまだ彼女は知識の底へたどり着いていない。宇宙の仕組みの基礎が分からず、応用された事象だけを観測できているようなもどかしさ

その片鱗を、手に入れた

「リソスフェアの再起動は、物質の再起動だ」

メルサリアは、少女の目を少年のように輝かせる

「再起動は一つじゃなかったんだ。恐らく、バイオスフェアにも、ストラトスフェアにも、イオノスフェアにも、再起動技術は存在する。それらをすべてつなぎ合わせることで、原初の再起動へとたどり着くことができるんだ」

メルサリアには、取り戻したいものがあった。それは、すでに滅び去ってしまったもの。それも、1000年よりはるか昔に

***

一機のハイドラが、リソスフェア上空から降り立った。メフィルクライアの指揮統制用ハイドラだ。最新鋭の戦闘システム、コネクトシステムを搭載した実験機である

「やれやれ、派手にぶっ壊しましたね」

フルフェイスヘルメットの奥の表情はうかがえない。モニターすらない操縦棺内部は闇に包まれ、無数の計器がグリーンに点滅していた

「でも、壊れないものなんて、食べないでいるケーキみたいなもので、いずれ腐ってしまうんですよ」

誰に聞かせるまでもない言葉。彼女はいま機嫌がよかった

リソスフェアの死の大地、不毛の峡谷に、再起動の影響であろうか……

要塞の跡に咲いた花は、霧に浮かぶグラジオラスであった


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