"コラム"カテゴリーの記事一覧
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霊障と呼ばれる現象が戦場で報告されたのは、ハイドラの運用と同時期のことであった
霊障は突然発生する。残弾を全て吐き出し、逃げるハイドラが……あるいは偶然接近する敵機に対応が遅れたとき、突然敵機に異常が発生し、事なきを得る
皆が皆偶然と思っていた。そもそもHCS(ハイドラコントロールシステム)の全容は全くわかっていないし、不具合も起こるだろうと。次第に、それは違う、ということが共有されていく
霊障は、起こせる
しかも、任意にだ
火器を搭載せずに戦場に乗り込んだ機体で、それは実証された。搭乗者の何らかの感情に対してHCSが起動していることが分かった。それに一番近いのは、孤独と不安、ということも分かってきた。戦う武器なくして戦場に立つ不安、そして孤独
それを救済するために、ハイドラは見えざる刃を振るい、搭乗者の不安や孤独を打ち消す。そういう仮説が立てられているが、まだそれが正しいと決まってはいない
疑似的にHCSを構築した小型ロボット……DRシリーズと呼ばれる機体がある。これはパーツの付け替えは不可能だが、疑似的に火器をコントロールし、ハイドラの武装を使用できるという、いわば劣化ハイドラである
最新式のDRで、霊障実験が開始されている。疑似HCSを搭載し、なんの火器も搭載しなければ、霊障が引き起こせるのではないか
実験はたびたび失敗し、テストパイロットは重度のPTSDに苦しめられただけだった。けれども、成功例は確かに存在する
ドゥルガーシリーズと呼ばれる、不気味な機体
そのデザインは、奇しくも不安を掻き立てるような異形の姿をしていたPR -
残像領域には社会があり、当然企業が存在した。その一つが白兎生体化学である
正確には一つではない。残像領域の企業は、どれもこれも分社と統合を繰り返し、もはや似ている社章の企業以外のつながりがない場合がある
バイオハザードマークの白兎が白兎生体化学のトレードマークである。これは、あまりに生物汚染を繰り返したため、そこら中に企業ロゴを貼る名目で意匠に取り入れられている
曰く、白兎のロゴが現れる場所には汚染あり……とまで
企業理念は生命の探求である。まず、白兎生体化学は最初にハイドラ搭載型のバイオ兵器培養装置を開発した。培養装置はバイオ兵器の休眠・活性・敵意をコントロールし、同時に生命維持も行う。使い捨てタイプの培養卵もこの企業の発明品だ
白兎の元締めは「メルサリア」と呼ばれる女科学者である。齢は千歳を超えるといわれているが、毎年クローン体に精神を移し替えて生きながらえているため、見た目は背の低い10代の少女に見える
彼女が何を追い求め、何をしているのか知る者は少ない。ただ、分かっていることは培養装置量産成功と前後して……謎のウォーハイドラが現れたということだ
そのウォーハイドラはなぜか最新式の……いや、明らかに進歩的なバイオ兵器を搭載し、戦場に現れる
彼は……彼女は、ミスト・アヴェンジャーという識別名で呼ばれていた。その本当の名を、知る者は少ない
そして初めて……かのものを撃墜せしめたライダーたちがいた。アヴェンジャーに搭載された謎の兵器を攻略し、倒れた戦友を越え、偉大な戦果を手に入れた
あらゆる兵器開発者を震え上がらせた、新兵器。「領域殲滅兵器」。ただ……
メルサリアだけが笑みを浮かべて、量産化計画の書類へサインをした
まるで夢見る少女のように! -
霧笛が遠く響いている。残像領域では聞きなれた音。出撃のサイレンの音。昼も、夜も休まることはない
一機のハイドラが霧のなかを潜り抜けてジャンク街に帰還した。装甲には弾痕。焼けた燃料の匂い。争いは日夜続く。
彼は他愛もない係争に駆り出され、命を懸け、その日を暮らせる程度の収入を得る
「やられたね」
整備士の中年女性がレンタル格納庫で彼を迎えた。操縦棺のハッチを開く。そこには空のコックピットと、世話しなく動くレバーとスイッチがあった
ハイドラの基本は操縦棺と9つの接続端子である。けれども、その外観は大きく異なる
操縦棺の構造について、きまった規格はほとんどない。ただ、HCS(ハイドラコントロールシステム)を搭載してある箱だ、というだけである。通信機で埋め尽くし、外部から遠隔操作する者もいれば、パイロットの代わりにAIを搭載して戦わせるものもいる
ただ、多くのライダーが操縦棺に乗り込むことを望む。そして機体の感覚を肌で感じることを楽しむ。それが戦いの熱が呼び起こした幻だったとしても
多くのものが霧の向こう……異世界から漂着するこの残像領域。けれども、ハイドラだけはこの世界に生まれ、この世界に育ち、この世界を蹂躙する
その多くは、自らの戦う意味さえ知らない
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残像領域の地理・気候・風土について示す
もちろん辺境に行くにしたがって情報は変化するため、絶対ではないことを断っておく
残像領域のほとんどは荒野であり、大きな草木は生育せず、いつも霧に覆われている。時折異世界からの漂着物が流れ着き、カーゴカルトのような崇敬を持って受け入れられる。ある信徒はコンテナを見つけた時、祈りを捧げてから扉をバールでこじ開け、恵みに感謝していた
荒野には大きな石と、ごろごろ転がる錆びた残骸の山。砂。枯草。何を食っているか分からない小動物の影がたまに見える
社会。残像領域にも街はある。そこに住む人もいる。様々な人種人外が行き交う街。人が集まれば商売が始まる。漂着物を回収し売り払う者。それを奪い合い、戦い、生き残るための道具を用意する者。飯を炊く者。娯楽を提供する者。政府らしき政府はない。あったとしても表舞台には出てこない。それは複数あるというのが皆の実感である
ハイドラを扱う組織は無数にあり、ギルドだったり、軍隊だったり、企業だったり、教団だったりする。利害が一致したとき、共に戦線を張るが、つながりは薄い。フリーの傭兵業も盛んである。ハイドラに乗ることは夢の一つである。誰もが一度はそれを夢見て、自らの機体を思い浮かべる。マーケットを利用できる人間は限られていた。偽造ライセンスや裏取引、闇市での購入など抜け道はいくらでもある
海がどこかにあるという噂。珍獣を集めた動物園の噂。それを確かめた者の噂。信じるか信じないかは自由であった -
霧の濃い戦場において、レーダーによる探知は特に重要であった
しかし、我々のよく知るレーダーと違い、その索敵範囲は恐ろしく狭い。理由は残像現象と呼ばれる幽霊の仕業だ
残像領域は広大な世界であるが、その開拓は一向に進まない。それは遠く遠くへと探索に行くほど、その情報は不確かなものになるからだ。一か月かけて到達した場所の情報の信頼度はわずか6割ほどである。情報は刻々と変化し、その情報は噂話の影を残すのみである。まるで残像だけを捉えても全く無意味なように
レーダーでもその現象は顕著である。強力なレーダーでもって捉えた情報は、遠く遠くへ行くほど信頼性を失い、索敵範囲を超えるとそこは残像のノイズの世界となる
この残像の世界で確かなものはあるのだろうか。多くのライダーたちは、あると答えるだろう。毎週決まって通信に混線する何かのCM……まぁ、大抵はイワシヤマ動物園においでよとか、新しいアトラクションがクルシミランドにオープンしたとか、そういうCMやニュースが頻繁に通信に混線する。そんな場所など、残像領域のどこにもないし、流れるニュースはめちゃくちゃな虚報なのに
それでも、ライダーたちは確かなものを信じる。多くのライダーが経験するそれは、そんな混線の一つ。ライダーたちは何かを聞き、何かを知るのだ。混線のさなか、聞こえる声に導かれて霧の向こうに消えた僚機。楽しそうに誰かと会話する声が……死んだはずの戦友の声が聞こえる。逆境に打ちひしがれた自分を奮い立たせた、幼い自分の声。あの時聞いた音楽が、死の淵で流れ出す。無我夢中で戦う背後に流れるオーケストラ……
その理由に到達したものはいない。ただ、誰かが残像の向こう側であなたを見つめている。誰かが、あなたを信じていることを感じずにはいられない。時と場所を超えて通信機から漏れた誰かの叫びが、あなたを最後の最後で奮い立たせるのだ
そして、霧の向こうから探しているのだ。もう一度、立ち上がるあなたを