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メルサリアは千年の夢を見ていた

千年前…窒息戦争よりさらに前。ハイドラなき時代に、彼女は生まれた
企業連盟が発足したのも、その頃だった。巨大な企業カルテル、財閥の集合体。企業が支配する人々の暮らし。その頃の景色を見た者はいるだろうか

メルサリアは知っている。その景色を。そして、その景色を知る者を

千年前の話。”老いた”メルサリアは、最初の再起動を迎えた。10代の瑞々しさを取り戻した彼女は、まず最初に関節の動きを確認した

「軽い。痛くない。上々ね」

次に呼吸と、内臓の感触を確かめた。全てが好転していた。一列に並んだ女子社員たちが服を手に、全裸のメルサリアに服を着させる。そのまま研究室を後に、ホールへと向かう

「私には、一つの夢がある」

壇上で語る言葉を、予行練習。ホールへと入ったメルサリアは、万雷の拍手で迎えられる。やっと、やっと彼女はスタートに立ったのだ

メルサリアは夢から覚めた。最初の再起動から500年後、窒息戦争のさなか。メルサリアはいまだ影の中で夢を温めていた。再起動の回数は25回を数えた

「夢を温めすぎると腐ってしまうよ」

メルサリアの友人はそう言った

「わたしは好機を待っているんだ」
「どうして? 状況はどんどん悪くなるだけだよ」

ハイドラの時代が続いていた。夢の記憶は次第に薄れていく。情熱は消えていく。興味は移ろい、跡形もなくなる

ケーブルで結ばれたバディの機体に乗り込んだ、メルサリアと友人

「領域遮断噴霧器。素晴らしい仕上がりだよ。これを見ても、わたしの夢が色あせているとでも?」

ハイドラの背中で猛烈に噴霧を繰り返す、巨大な煙突

「夢見ているものに、夢の濃度は分からないよ。酔っているもの」
「そう。なら、永遠に酔っていたいね」

目覚めるメルサリア。覚めない酒はないように、目覚めぬ夢もない。死を超えたメルサリアに突き付けられた法則。企業連盟の支配者を決める戦いが始まろうとしていた

熾天使旅団、デスケル重工、ヒルコ教団、辺境自由同盟。空席となった企業連盟指導者の後釜に座るべく、世界中から候補者が集まり、次々とライバルを蹴落とし、最後に残った5つの勢力

「ようやく、ようやく夢が叶うんだ」

再起動の回数は20年に一度から、毎年まで間隔が狭まっていた

盗まれた研究資材

バイオクイーンの暴走

企業連盟の影の支配者

友人の言葉がいつまでも胸に残る

「ハイドロエンジンは失敗作だよ」

夢が、色あせていく

「お前の夢は、失敗作だ」

最初の言葉。そこから全てが始まった

「違う!」

最後に、メルサリアは目を覚まし、現実へ帰還した。余りにも多くの人生を渡り歩いたゆえに、多重構造の夢をよく見てしまう

領域殲滅兵器

その小型模型が、ベッドの脇に飾られていた

「夢じゃない」

取り戻した全てが、そこにあった

「わたしの夢は再起動する。何度でもね」


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残像領域には中央と辺境がある

その多くは荒野であり、深い霧が立ち込める残像領域
その中央部とみなされる場所には、巨大な塔が立っている

この塔は遺跡であり、誰の侵入も許しておらず、自動的に供給されるガードロボットによって守られている。これらをスクラップにして、無尽蔵の資材を手に入れられる

そのため、ひどく安い値段でロボットやパーツを作ることができる。塔のふもとにはそれを目的とした街が形成され、あえて比較するとロンドン程度の面積の巨大機械化都市となる
これが、企業連盟の本拠地である

そこから遠く離れるほど、辺境になる。どこから辺境と言うかは意見が分かれるが、機械化都市の外縁からだいたい西に5000km程行くと西方辺境と呼ばれる場所になる

西方辺境。

その中心には巨大遺跡群と、その中枢とみなされる≪月の谷≫が存在する。月の谷に向かうには、4つの要塞を攻略せねばならないだろう

西に1000km進むごとに遺跡要塞があり、1000km地点にリソスフェア要塞、2000km地点にバイオスフェア要塞、3000km地点にストラトスフェア要塞、4000km地点にイオノスフェア要塞が存在する

もちろん、残像領域に距離という概念はふさわしくない。気付いたら1時間に200kmも進んでいた事例、突然の転移、あるいは遅延。不思議なことばかりが起こる。時間と距離は人によって違うとすらいえる

月の谷。

それは遺産技術の塊である。企業連盟はその力を知っている。自らが無尽蔵のリソースを得て肥えていることを知っている
だから、月の谷は封印指定にされた。5000kmの距離は、さすがに企業連盟の目も届かない。支配下に置いたとしても、暴走、独立するのは目に見えている

月の谷周辺に住まう者たちは不服だった。目の前に御馳走があるのに、理不尽な力でそれを禁じられている。機械化都市の潤沢な資源を遠目に見ながら、力こそ全ての荒野で砂を噛む毎日

そして、禁を破った

「ねぇねぇ、昔話をしてよ」

かつて、残像領域には力が存在した

「そうだねぇ、ずっと、ずっと昔の話……」

ハイドロエンジンから分岐した、二つの力

「名前さえなくなった騎士の話だよ」

なぜ、辺境には未確認機が現れる?

「騎士はとても強かったんだよ。水の力で動く騎士さ。人々は騎士に守られて、平和な時代を過ごしていたのさ」

なぜ、残像領域には霧が立ち込める?

「ある日、誰かが思った。騎士なら、騎士を倒せるんじゃないかって。実際、そうだったのさ。騎士は騎士同士、戦い始めた……」

エンジンの設計図は、どこから来た?

「騎士は全てを破壊したのさ。後に残ったのは、すべてを失った騎士。名前すら伝承されない、DRの二文字。心臓と、剣を失い、ただ佇立する影」

あの霧笛は、どこから響いてくるのだ!?

「そして、誰かがまた思ったのさ。霧の心臓に、剣を持たせたら……騎士の代わりになるんじゃないかって」

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時は過ぎる

苗木は大木になり、小川は渓谷を築く

企業もまた、成長を続けている
残像領域に倒産はない。そもそも経済競争などない。あるのは力と力のぶつかり合いだ。企業は実力行使でもって敵対企業を粉砕する
だから、法に守られた倒産など存在しない。あるのは、完膚なきまでに蹂躙する破壊だけだ

ただ、それでは安心がない。誰だって枕を高くして寝たい。そして、秩序が生まれた。戦闘機械と乗員を駒にしたチェス・ゲーム。その勝敗すらも秩序に満たされている
昨日勝ったから、今日は勝ちを譲ろう。今日は接待、明日は取り分を得る。そうやってWIN-WINの関係を維持する。欠けた駒など新しく買えばよい

その秩序を企業連盟と呼んだ

秩序は成長を続ける

大木は幹の内側から腐る。渓谷は斜面の崩落を誘発させる

企業連盟は無敵だった。従わないものは力ですべてねじ伏せた。金にならない辺境の無法者どもは無視していた。取るに足らないものばかりだ。企業連盟は退屈していた

霧笛の音が聞こえる

連盟議会の議題に挙がったのは、一つの組織。≪霧笛の塔≫
霧笛の塔は謎の機関だった。マーケットとのパイプを持ち、ハイドラのサポートを行っている。ハイドラは力である。そして、その力は秩序にとって目障りだった

力は一つだけでよい

力は成長する。苗木のうちに、小川のうちに処理すべきだと


時は過ぎる

霧笛の塔の派遣仲介人、ノラ。彼女は、子犬の写真で飾られた操縦棺に乗り込み、ミストエンジンを起動させた。今日で早すぎる仕事納めだ。空は青く、霧が薄い日だった
口笛を吹き、機体を発進させる

「本日は輝かしい日である、ってね」
「輝かしい? どこが?」

VOICE ONLYの表示の向こうから、通信が続いている

「全てを失おうとしているのだよ、君は」
「失う? 何を?」
「全てだよ」
「違うね」

ノラは仕事場に向かっていた。ハイドラの戦いを見届けるためだ。それも今日で終わる

「私は何も失っていない。私は自己を保持している。そして、ただ……」

彼女は子犬の写真を一枚手に取り、キスをした

「ただ、時が過ぎただけだよ」

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シルウェストリス航空は残像領域の航空機メーカーである
450年続く老舗の企業で、数々の名機をこの世に送り出した

ブースター「アメリカンショートヘア」
ミサイル攻撃機「デボンレックス」
飛行ユニット「マンチカン」
そして、超高速空域到達装置「スフィンクス」

超高速空域到達装置はかつて存在したハイドラ用パーツである。それを語るには、短い経緯を語らなくてはいけない

窒息戦争末期に現れたなぞの未確認兵器。120連ミサイルを搭載し、戦場を駆ける四足の機械。一瞬で領域に現れ、ミサイルですべてを破壊し、消えるように領域を離脱する。なすすべなく破壊されるハイドラだったが、シルウェストリス航空の前身である企業が、初めてこの未確認機の撃墜に成功する

そして識別ネーム「ミサイルキャリアー」に名付けたのだ。「スフィンクス」という名を

スフィンクスの分析が始まった。ます、その推進装置を解析した結果、生まれたハイドラ用パーツ。それが超高速空域到達装置であった

超高速空域到達装置は、テレポートを行う装置である。ただ、空域と名付けられるのには理由がある。地面と干渉すると、大爆発を起こし機体がバラバラに吹っ飛ぶからだ。だから安全のために高度の高い場所にテレポートする

スフィンクスは消えた。まるで倒されるのを待っていたかのように。100年ほど時がたち、超高速空域到達装置の技術は断絶し、今に至る

10年ほど前だろうか、スフィンクスに酷似した機体が残像領域に現れ、やはりミサイルをばら撒いた。けれども、そのミサイルの数はかつての数に及ばず、テレポート能力もなく、ただ形が似ているだけの張りぼてだった

けれどもシルウェストリス航空はこの未確認機に「スフィンクス」という名を与え、大いに喜んだという

帰ってきた。スフィンクスが帰ってきた

超高速空域到達装置が生み出した悲劇。わざと敵拠点にテレポートし、ライダーごと爆破させて拠点を消滅させる戦術

きっと、見届けに来たのだ。スフィンクスは、自らの与えた技術の行く末を後悔したのだろう。そして、それが忘れられていたことに安堵しにきたのだろう

その猫のようなヘッドパーツは、まるで笑っているようだった

しかし、誰かが思った

領域殲滅兵器もまた、未確認機から得られたものである
もしかすると、これも悲劇を生む結果になるのだろうか……?

それはまだ分からない

すべては霧の中なのだから

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空を蹴って進む。足場が無くなれば、脚部備え付けのブースターを起動する
霧の中を、どこまでも上昇する
たまに急降下し、攻撃する
だが、その上昇気流は、終わることはない

「どこまで行く?」
「銀河に手が届く場所まで」

2機のハイドラが戦場の片隅にいた。片方は地上で防衛戦。片方は、どこまでも高く

「俺を置いていくなよ。いつだって、大事な時にお前はいないんだ」
「わかってるよ、私はどこにも行かない」

ハイドラの脚部には、外付けブースターとは別に、内臓ブースターがついており、それを起動することでジャンプすることができるものがある

ハイドラの空戦能力は高い。空中の敵機にも熟練者は容赦なく格闘武器を当てていく。最初からそうだったわけではない。操縦棺が発見され、それを車輪やタンクに乗せていた時代もあった。やがて、残像領域の人々はHCS(ハイドラコントロールシステム)の奇妙な特性に気付く

HCSは人間の感情で、微妙な機体制御を行える

「私の心が銀河へ向かい続ける限り、私の機体はそれに応える。そして、どこまでも高く」

まず多脚が誕生した。ブースターを6基内蔵した、6脚の脚。それらは予想以上に、意のままに動いた
ブースターの向きを6本の脚が器用に制御し、空中で安定して姿勢を保つ。フライ・バイ・シナプスと呼ばれる理論。やがて生まれる二脚。そして、より空戦に適した逆関節へと進化は続く

「俺を置いていくなよ。ついていけそうにないよ」

地上機体の重装甲には、すでに無数の弾痕。それを見つける装甲戦車『アルマジロ』。この大型戦車はハイドラよりも重く、大きい

「やれやれ、ピンチだってのに、お前は俺の届かない場所にいる」

アルマジロの戦車砲がこちらに気付く。感情は無限ではない。意志は、万人に等しく与えられる力ではない。そして、窮地になるほど、人の感情と意志は見るも無残に押しつぶされる

それでも

「だからこそ、俺はここに立っていられる」

重装ハイドラの肩部が変形し、砲口を晒す。エネルギーの充填は終わっている!

まばゆい光! 放電コイルの稲妻が、アルマジロを黒焦げのスクラップに変える

「お前が空にいる限り、俺は地上のどこでも、お前を見上げて戦える」

上空で銀河を目指す軽量ハイドラが、ノイズを煌めかせて瞬いた
1か月前のことだった。彼女は高射砲の一撃を受けて地上へ帰ることはなかった。それでも、彼は、彼女の残像を見上げ、戦い続ける

彼は、残像を追いかけていた

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