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霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

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虚空のコラム『ミストエンジンの中には、何もない』
無、虚空、零

何もない

それがこの世界と、
そしてグレムリンを走らせる力


--- --- --- 


彼には忘れられない光景がある

グレムリン整備士として働き始めたころのことである

完全な理論
完全な知識
それを求め、経験を積み
ようやく整備士のライセンスを手に入れた

そして、意気揚々と繰り出した
仕事の場に……最初の職場である、格納庫へ

そこは大空母船団【ヒルコ・トリフネ】の一角にあった
整頓された、何もない、がらんどうの格納庫
ここを自分色に染めてめちゃくちゃにカスタマイズしていく
そんな予感を感じながら、その何もない場所を見つめていた

「君がタワーから来た整備士かね?」

背後から声。驚いて振り返り、また驚く
音もなく一人立っていたのは、巫女だった

写しの巫女……ヒルコ・トリフネの最高権力者
そして、彼を雇用したそのひとだった

「は、初めまして!」
「緊張することはない」

巫女は、ゆっくりと格納庫に入っていく。そして、何かを無線機越しに命令した。すぐさま、侍従たちが一基の……ミストエンジンを格納庫内に運び入れる

「君の知識を試したくてね」
「え……」
「はは、間違ってもいい。ただ、教えておきたいことがある……が、まずは、ミストエンジンの構造について聞こうか」
「は、はい!」

彼は流暢に、自分の学んだすべてを話した
ミストエンジンは霧の粒子による作用……霧力で動くこと
霧の粒子により、重粒子イオンが生成され、パルスが生まれること
そのパルスがグレムリンフレームに行きわたり、動力になる……

「よろしい、よろしい。それを聞きたかった」

安堵する彼だったが、巫女は背中を向けたまま、次の指示を無線で下した
格納庫にエレベータが起動する音が響く

「これから、グレムリンフレームを動かす。異常がないか、見てくれ」

エレベータに乗って現れたのは、ごく普通のヴォールト・フレームだった
侍従たちが素早くミストエンジンを、フレームにアセンブルする

そして、ヴォールト・フレームは骨のような身体を起動させて、目の前に膝をついた

「おかしいところはないかね?」
「……」
「気づいたら、何でも言うといい」
「ミストエンジンの設置が、ずいぶん楽そうに見えました」

肩をピクリと動かし、震えるように笑う巫女

「やはり、君は素晴らしい。答え合わせだ。ミストエンジンを見てみろ」

そんなはずはない
一つの、荒唐無稽な想像が頭をよぎる

まるで……
まるで、張りぼてを設置するようにフレームに取り付けられたミストエンジン

そんなはずはない
あそこは数十リットルの水と、分厚い隔壁と
そして様々な機構が張り巡らされた、精密機械――

「…………!?」
「ひとつ、教えよう。グレムリンの不思議だ」

彼の指先が震える。エンジンに触れ、内部を開き、そこにあったものは――

「グレムリンは何で動く? なぜ動く? なぜ、強い? 理論がある。言い訳がある。理屈がある。それらを全てあざ笑うように……」



エンジンの中には、何もなかった


「グレムリンは、ゼロの力で動く。これぞ零力。さぁ、この謎に挑もうか。共にな……」



いま、彼はヒルコ・トリフネで新型グレムリンフレームの開発に携わっている
そのたびに、思うのだ

理論
理屈
そして、構造
全ては、ゼロの前に等しい

等しいが……もし、それらを失ったら、きっとグレムリンはその乱杭歯を剥いて笑うだろう
お前は全てを無駄にしたんだなと

彼は研究を続ける
辿り着く場所へと

それは、最後の到達点であり、そこまでの距離は最終的に……



――ゼロになる

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コメント

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