霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

グレムリンズギフトⅠ chapter3『潜入』 sectionA
その日は空を覆いつくす粉塵がどんよりと暗く湿っていた
ずっと昔の話だ

私は子供で、「彼」もまた子供だった
いま、「彼」は何をしているのか
たまに思いにふけることがある

そう、今のように

「カザミサ、きみは……選ばれたんだね」
「あんた、誰なの?」

最初の言葉は、不思議な言葉だった
その少年は、カザミサを見るなり、そう言ったのだ

「ぼくの名前は嘘だから、教えても意味がないよ」
「じゃあ、何て呼べばいいの」
「……『シャドウ』、そう呼んでいいよ」

どこで出会ったか、記憶が定かではない
私の周りには無数の大人たちが群れている
顔は思い出せない
ただ、皆深刻そうな顔をしていたように思う

彼――シャドウは、ニコニコと私を見守っていた
周りの大人たちとは違い、心から私を……
祝福していたように思える

「シャドウ、あなたはどうしてガラス壁の向こうにいるの」
「だって、ぼくは嘘だからさ。本物の君には、触れられない」
「何なのそれ」

最初は不愉快だった
ニコニコと見透かすように私を見ていた

ただ、その表情の向こう側には、確かな敬意を感じていた
他の大人たちは、怯えていた
まるで繊細なガラス細工を触るように、私にいくつも針を刺していた
そして目を見開き、不思議な機械を凝視していた

シャドウは、私に触れなかった
ただ、毎日のようにガラス壁の向こうに現れて、
ニコニコと私の話し相手になってくれた

「おとぎ話をしようか」

「そんな歳じゃない」

「昔々、あるところに……」

「きいてないし」

「あるところに、一つの箱があったのさ」
「それは開けてはいけない箱と言われていたんだ」

「ある日、いたずらな子供が、その箱を開けてしまった」
「何が出てきたと思う?」

「邪悪な悪鬼さ。全てをめちゃくちゃに破壊してしまった」
「悪鬼は邪悪な脚で世界を14日かけて駆け巡り、14の国を滅ぼした」
「子供はずっと泣いていた」

「でも、気づいたんだ。悪鬼が出てきた箱には、魔法がかかっていた」
「子供は願った。世界をもとに戻してよと」

「その瞬間、大きな蛇が箱から現れて、悪鬼を飲み込んでしまったんだ」
「悪鬼は飲み込まれる前に、一つの呪いを残した」
「何度でも蘇って、蛇殺しの魔法で、世界を滅ぼすと」
「蛇は言い返したのさ」
「悪鬼の鎧と悪鬼の剣は、壊れてしまうだろう。誰を傷つける前に、悉く」

「そして蛇は大地に横たわり、世界になった」
「世界はやがて、箱を見つけて、悪鬼を呼び戻す」
「そして蛇はまたそれを食らい、世界へと姿を変える」
「そんな追いかけっこを、ずっと続けているのさ」

私は聞いたことがあった。古いおとぎ話だ
蛇の呪いが、機械を故障させると、よく言われた
それは《霊障》と呼ばれていた
悪鬼の棲む機械が、呪いを受けて壊れるのだ
グレムリンズ・ギフト……
悪鬼からの、不幸な贈り物

私の記憶はいつもそのおとぎ話で終わる
シャドウが現れると、彼はこっそり私にチョコレートをくれたり
面白おかしい話をしてくれたり
いろいろと他の楽しいことはあった

でも、そのおとぎ話を語るシャドウの表情は悲しげで
それだけが強く印象に残っている

「どうして笑わないの? いつもみたいに」

「ぼくは悲しいのさ」

「おとぎ話を話すことが?」

「蛇と悪鬼は、ずっと一緒になれない」

「そういう話だからね」

「本当は、仲良しなんだよ」

「そうなの?」

「悪鬼はまだ、幼いんだ。世界を救う方法を知らない」
「泣いている子供も、全てを飲み込む蛇のことも、本当は好きなのに」
「何も知らない子供だから、何もかもを壊してしまうんだ」

「でも、君は違う」
「もし君が悪鬼に出会って、教えることができたなら――」

「悪鬼は知るのさ。世界を救う方法を」

回想はいつもそこで終わる
世界を救う
それが何を意味するのかは分からない

私は今、世界を救えるだろうか
何かを知っている者たち
動いていく世界
滅びを知らない機体
私の鋭すぎる””直感””

何を意味するのだろうか
それを知りたいと思った

だからいま、私はこうして……
テイマーズ・ケイジの中枢に忍び込もうとしている

>>next sectionB

拍手[0回]

コメント

コメントを書く