霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

霧のコラム「暗渠」
あるひとは言う
ひとは何かを残すために生きるべきだと
それは意志だったり
子孫だったり
名声だったりする

ひとは死ぬ
そして、そのほとんどの情報を失う
俺はそうは思わない

俺は――俺の情報など
常に手のひらから零れ落ちる水のように
消えていく存在だと

昨日のこと
10年前のこと
産まれた時のこと
3分前の思考

それらは火花のように瞬いて、俺の中にはもう無い

俺は、ハイドラライダーになりたかった
結論を言おう
俺は、なれなかった
それは、常人には不可能な領域の話だった

けれども、俺の中の火花はいつまでもバチバチとくすぶり続けていた
だから俺は――コロッセオ・レギュレータ社に入った


……


面接の勝算はなかった
三文小説さながらの「意気込み」を書き
簡単なテストを受け
それで終わった

不気味な会社だった
今まで行ったどんな企業とも違う
俺の担当は「シェフィル」という女性だった
担当……入社に担当が必要なのか? とは思った
ともかく、俺はなぜか試験をパスし
コロッセオ・レギュレータ社の一員となった

「シェフィル」は仕事をよく教えてくれた
ハイドラをメインテーマに据えた広告・放送・雑誌
なんでもやる

アナウンサー紛いの実況中継をさせられた時は閉口した
ともかく、俺は忙しい日々を過ごす

ある日、俺は「シェフィル」に火花のことを話した
消えていく情報
消えていく俺
消えていく全て
そして、手に入れる全て

「シェフィル」は馬鹿にせず、真面目に聞いていた

「君は適性がある」

そうとだけ返事をした。何の適性かは分からなかった

帰り際に――夜のオフィスから帰るときに、それの真意を聞きたかった
俺はオフィスへと戻っていく

暗いオフィスに、「シェフィル」はいた
誰かと通信をしていた

モニターに流れる緑色のシステムメッセージ

声が聞こえる

聞いてはいけない気がして
俺は音もたてずにその場を去った

ただ、耳にこびりつく声

「……重圧試験の方はこちらで。11号空母は3番艦まで建造するから、全て試験をパスしてる。問題はないよ。それで交信術導の方は……」

聞いてはいけない気がした
家に帰り、冷蔵庫を開く
そこに冷えていたのは、買った覚えのないケーキと

「おりこうさん☺」

のチョコペン文字だった

俺は全てを失いつつ生きている
何も、積み上げたものはない
全てを忘れて生きていく
全てを失って生きていく

それでも……

どうやら俺は、生きていくようだ
何も知らず
何も残さず
何も起こすことなく

それでも俺は……カメラのシャッターを切る
ハイドラの姿を捉え、食らいつき、生きていく

まるで誰にも気づかれない暗渠のように
暗く、静かに、流れていく

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