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霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

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霧のコラム「南風が届く頃」
蒼穹に腰を据えた天使が今、
流れ星を一つ捕まえて、虚無に放った(天使?)
ここは静かな世界
ただ、聖なる時間が流れ
全てが憩う世界


――


錆釘街行きスパロウベイン発19:30の列車
電車の窓に肘をつき、彼は夜空を眺めていた

夜行列車は荒野を東に進んでいた
個室の空気は冷え切っている
西方辺境から中央都市に向かうこの列車は
様々な客を乗せ、無感情に疾走する

「ちらつく蝶」が個室の照明に挑み、輝く鱗粉を放っていた
かなり珍しい蝶だ
聞くところによると、ハイドラのパーツを作るのに使われるとか

残像領域は生命の気配はほとんどない
霧に包まれた荒野には食物も食べ物もなく
小動物や昆虫はほとんど見られない

それも5年前までのこと
いまや、巨大な密林があちこちで隆起し
チーズに生えたかびのように、コロニーを形成している
霧の姿はなく
電磁波のノイズもない

密林の中では、独特の生態系が築かれつつあるという
何処からともなく現れた奇妙な生き物
ゴリラ、そしてハムスター
伝説上の生き物ばかりだ

「いい機会だったんだがな」

彼はぽつりと、零した
彼は5年前の禁忌大戦の際に、西方辺境がめちゃくちゃになったときに
新しい風を感じていた
きっと、この焦土から
森に包まれ、崩壊した街から
新たな何かが生まれる

そんな思いを感じ、新興西方都市「スパロウベイン」へとやってきた

結果は、なんとも無味乾燥した手ごたえだった
新しい風に乗り、何かを掴み、羽ばたいてく人を見ていた
彼は、どの領域でも、傍観者に過ぎなかった

もちろん、破滅したものもいる
風に乗ろうとして、無謀な賭けに出て
失敗し――

もう、二度と会うこともないだろう別れを繰り返し
彼だけは、何も変わらず

こうして……
中央都市に、何のプランもなく、乗り込もうとしている

キャッシュカードの残高は15万money。それっぽっちだ
何かを捨てれば、何かを得られると思っていた
結局失っただけで、虚無が訪れただけで
彼は何も得ることはなく
ただすり減っただけだった

「もう、俺には機会さえ残されていないのかもな」

もし神がいるのなら
天使がいるのなら

救いくらいあったっていいんじゃないか
そう思っても、得られるものは何もなかった

伝説によると、神と天使は滅びたという
最初に西風がきて、
次に東風がきて、
最後に、北風が来た
恐ろしい北風、フィンブルヴェト……
最後まで抵抗を続けた南風は、
ばらばらになり
湿った六月の風を残して
消えてしまった

「神は消えた……自分も守れなかったのに、俺を救うことなど、できやしないか」

そう思うと、彼は少しだけ愉快になった
この世界は、神さえも滅びるのだ
矮小な人間が滅びたって、何の疑問もない必然だろう

個室の内線が、ザリザリとノイズを発する

「ザザッ……ザーッ……できますよ……ザーッ」

ノイズが返事をした? しかし、この残像領域、不思議なことなどありふれている

「できないさ、神も天使も無力なものだ。矮小な、吹けば飛ぶような、俺一人救えない」

「……むーっ、覚えていなさいよ。私は灼耶。今はまだ、霊送されているゆえ――」

風を感じた。彼は、確かに自らを包む、六月の風を感じた
日記のページが次々とめくれ、襟がバタバタと揺れ、髪が乱れ――

「もう十分だ。おれは、飛べる。この風を受ければ……だって……」

吹き抜ける風は次第に弱まり、内線のノイズは小さくなり、
彼女の声は消えた

ただ、ちらつく蝶だけが、照明に挑み羽ばたき続けていた

「風さえあれば、吹けば飛ぶような、俺だからな」

中央都市に向かい突き進む列車は、無感情に、彼を乗せて……疾走していた



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