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霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

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ゼロのコラム『戦いの前にメシを』
まずはメシを喰おう
戦いにはそれが必要だからだ

彼は魔王だった
そして、戦い続けていた
勇者の侵攻は激しさを増している
なぜか?
それが、勇者というものだ
と片付けるには、少々足りない

勇者は、魔王を倒すべく生まれた
それは光と影のように
コインの裏表のように
表裏一体として存在していた

それは、一説には魔王の影だという
魔王の魔王領域が生み出した、反する力を持つ存在
それで初めて、つり合いが取れる、というものだ

魔王領域は、この世に歪みをもたらす
そして、勇者は歪みを正すために
生み出され
遣わされるのだという

とにかく、彼は勇者に追われていた
裸足の足が血でにじんでいた
息がかれる
喉の奥に血の匂い
汗が背中から吹き出し、べったりと服が張り付いていた
吐く息が白く、勢いよく噴き出す

すでに、彼の設けた罠は全て踏破され
頼みの護衛も全て倒された
勇者は、もうすぐ彼を捉えるだろう

残る階層は奈落、そして魔王領域のみ

「どうすればいい……どうすれば?」

激しく自問する
ただ、魔王としているだけで
魔王として世界に干渉するだけで
勇者がどこからともなく現れ
こうして彼を追い詰める

戦わなければ、勇者は現れない
戦いを目指した時から、勇者は現れる
そして、どこまでも追い詰める

「奈落で決着をつけねば……」

自分を追いかける勇者
その中間地点に、奈落はある
勇者が奈落に近づいている

奈落には、彼の腹心が眠っているはずだ
そう、氷結のヴァンパイア・プリンスがいるはずなのだ

奈落に接触すれば、勇者の前にヴァンパイア・プリンスが現れる
そして、瀕死の勇者にとどめを刺す
そう願うほかない

願う……

願う?

誰に?

神は滅びた

まさか、勇者に許しを乞うというのだろうか

「俺は……」

彼は歩みを止めた
そして、ゆっくりと振り返った

今まさに、頼みの綱のヴァンパイア・プリンスが
勇者に一矢報いつつも制圧されたところだった

何をすればいい?

有効な手を打ち一発逆転させる?
あるいは、奇跡的な逃げ道を見つける?

そんなものは必要ない

彼は、ポケットをまさぐった
チョコレートがひとかけ
体温で柔らかくなっていた

それの銀紙を剥き
彼は口に含んだ

生きることに必要なのは、天才的戦略ではない
逆転の戦術でもない

こうして、食うことだ

勇者が、ゆっくりと彼に近づく
やるべきことはたくさんあったかもしれない
尽くすべき手は無数に

それでも、
メシを食うほかに、大切なことなどあっただろうか

「俺は準備できたぜ」
「……」

勇者が、魔王領域に触れた
その瞬間、魔王の力が炸裂した!

魔王攻撃……

魔王の持つ、最強の力
その射程は、あまりにも狭い
それでも……

「オオオオ……」

勇者はバラバラに吹き飛ぶ
度重なる罠と
護衛の攻撃を受けた勇者に
耐えるすべはなかった

「ギリギリ……倒せたか」

きっと、売り上げは悲惨だろう
彼は、塩の柱となった勇者の亡骸から
依り代となる宝石……捕虜を手にいれる
度重なる侵攻で捕虜のほとんどを失った
きっと、元は取れないだろう

それでも……

「メシを喰うよりは、些細な問題だ」

彼は歩き出す
その後ろを追従する護衛たち
そして、ヴァンパイア・プリンス……

彼の戦いは続く


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