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霧の残像領域

長文を流したいけど皆さんのTLを汚したくないときに使う場所です

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ゼロのコラム『旅立ちの朝』
旅に持っていけるものは少ない

つまりは、選ばれるということであり
最も大切なものの一つ、ということだ

そして彼女もまた、旅立ちの日を迎えていた

ここは『底抜け天井』
遥かなる大深海『スーパーデプス』のさらに上
光り輝く天体が浮かぶ『虚空領域』……その上

ボロボロの構造物が辛うじてぶら下がっている冷たい場所
そこが、『底抜け天井』だった

彼女は魔王だ
魔の力を持つ魔法使いの中で
最も古い種族、ということだ

彼女は『底抜け天井』に生まれ落ち
静かに生きて暮らしていた

かつて、魔王は世界を支配していた
神々とともに世界を創り
神なき後は経済で世界を導いていた

それも今や昔

モンスターを召喚するなどの力こそあれど
いまや何の権力もない

つまりは、『底抜け天井』の住人の一人にすぎず
普通に暮らして、普通に労働し、
秩序に貢献することを求められていた


ある日、彼女は仕事を辞めた
彼女は飯炊きの仕事に従事していたが
どうもこうも、うまく利用されるだけの毎日だった

魔法の力を酷使され、
対価として得られるのは、カラカラに乾いたパン
そして、たまに干し肉や豆の缶詰だった

彼女は、自分の作ったごちそうを食べることはなかった
もちろん、飯炊き主人から魔力を貰い、それでようやく作れるものだが
それにしても、扱いがひどすぎた

住み込みの職場を後にして、彼女は旅立った

「わたしは、魔王なんだ」

古い血の種族。勇者と戦い、世界を支配する、高貴な種族
それが、パンと缶詰だけで酷使される

もう限界だった

夜の3時に、彼女は『底抜け天井』のどこか遠くを目指して、歩き出した
持ち物は、何もなかった
全て奪われていた
飯炊き主人に、何もかも奪われていたのだ

おなかがすき、彼女は道端にうずくまった
あのまま酷使されていれば、食いものにはありつけた
けれども、心は飢えたままだった

「でも今は、夢でお腹がいっぱい」

自分の意志で歩き
自分の意志で旅立ち
そして、自分の意志で、死――

手の甲に落ちた涙で、はっと顔を上げる

気づけば目の前に、象がいた

「ぱおーん」

象の背に乗る謎の人物
顔は暗くて見えない
ただ、声は若い男に聞こえる

「マーケットに、ようこそ」
「マーケット? わたし、お金も何もない」
「いらないさ。お金は、後から払えばいい」

象の鼻が、背中の荷台から何かを掴んで、そっと差し出す

飴玉だった

「おっと、食べちゃダメだよ。それは変化の罠」
「罠……?」
「君は、マーケットにアクセスできる。そこで自らを護る、全てを手にいれるんだ」

象の背の彼が、手を掲げた

すると、視界を圧倒的物量が覆いつくす!
鎖に繋がれたドラゴン!
不思議な機械や装置!
目の前を行き来するコボルトやゴブリン!
そして、ショーケースの天使……

あらゆるものが、並んで売られていた

「好きなものを選んで戦うんだ。もうすぐ、勇者がやってくる」
「勇者……!」
「君は戦う。勇者を捕らえ、村を焼き、金品を集め、最強の略奪王となる。そう、君は確かに、魔王なんだ。何も恐れることはない」

夢にまで見た、お伽噺の世界があった。でも――

「どうして、私に……」
「それは君が魔王だから。そして何より――」

「君が夢を持って旅立ったからだよ」

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